求道者たち vol.44
銅鍛金工芸 2024/3/4

祖父から受け継ぐ鍛金の技で、人々の暮らしを潤す。

荒川区で三代続く、鍛金の工房。

東京都荒川区には、たくさんの伝統工芸が今なお息づいています。JR三河島駅からほど近い「長澤製作所」も、その一つ。鎚音の響く工房で生み出されているのは、鍛金による工芸品です。鍛金は、銅や銀などの金属板を木槌や金槌で叩き、伸ばし、絞るなどの加工を施して器や装飾品を作る技術。日本へは弥生時代に伝来し、古代は馬具、装身具、仏具などにその技術が用いられてきました。「長澤製作所」は、三代続く鍛金工房。銅、真鍮、銀などの金属を用いて主に急須や茶筒、やかん、湯沸かしなどの茶器類を製作しています。用の美を備えた茶器は、日本国内のみならず、喫茶の文化のある中華圏などでも高い評価を受けており、実演販売で店頭に並ぶ商品はすぐに売り切れてしまうほどだと言います。

銅鍛金工芸 長澤製作所
銅鍛金工芸 長澤製作所
長澤製作所
東京都荒川区荒川3-7-4 http://tankin-nagasawa.com/

高い技術が生み出す、人気の急須。

長澤製作所の当代は、三代目となる長澤利久さん。初代の元荒川区指定無形文化財保持者・金次郎氏(故人)は祖父、二代目の荒川区登録無形文化財保持者・武久氏(故人)は父という環境の中で、その腕を磨いてきました。そして利久さん自身も、平成30年度に荒川区登録無形文化財保持者に認定されています。長澤製作所の茶器類の中でも、急須は人気の高い商品ですが、この急須に実は高い技術を受け継ぐ長澤製作所ならではの特徴があります。

銅鍛金工芸 長澤製作所
長澤製作所・三代目 長澤利久(ながさわ・としひさ)氏

独自の“切れ”をみせる、注ぎ口。

長澤製作所の急須の見事さは、急須そのものの造形の美しさに加えて、注ぎ口を汚すことなく美しくお茶を注げることにあります。この“切れのある注ぎ口”も、祖父伝来の道具を使いながら手仕事で繊細に作り出されているのです。鍛金工芸で急須を作り出す場合、まずは、急須のボディ、持ち手、蓋、注ぎ口など各パーツごとに金属の板を切り出します。切り出した金属板は、蜂の巣(はちのす)と呼ばれる金属の土台に刺した「あて金(あてがね)」を利用しながら、金槌や木槌で叩いて形成していきます。「あて金」には、様々な形のものがあり、形成するパーツに合わせて選択していきます。急須の注ぎ口も、注ぎ口専用の「あて金」を利用して形成され、比類なき切れの良さをみせる製品になってゆくのです。

銅鍛金工芸 長澤製作所
様々な道具を使いながら、金属板を形成していく。写真上が「蜂の巣」(左)とあて金(右)。
銅鍛金工芸 長澤製作所
鍛金技術で成形された、急須のパーツ。

この先も受け継がれる、鍛金の技。

三代続く長澤製作所には、利久さんの祖父の代からのファンも多いそう。長年、長澤製作所の茶器を愛用する中で、修理が必要になった場合は、祖父の茶器、父の茶器が持ち込まれることもあるそうです。現在、利久さんのもとでは、荒川区が伝統工芸に関心のある若者をサポートする、「荒川の匠育成事業」を活用して弟子入りした熊木さんも腕を磨いています。たくさんの人々に愛されてきた長澤製作所の工芸品を作る技術は、これからもたくさんの人々の生活を潤すために継承されていくようです。

銅鍛金工芸 長澤製作所
三代目・長澤利久さん(右)と、弟子の熊木さん(左)。
銅鍛金工芸 長澤製作所
用の美を備えた、長澤製作所の茶器。急須の取手などに巻かれた籐、蓋に被せたニットは利久さんの親族の仕事。

銅鍛金工芸