学校訪問 vol.2
啓明学院 2011/11/22

ユニークかつ貴重な体験を通して
生きる力を育てる

普段の授業で学べないことを
学べる「キャンプ教育・土曜選択学習」

 「学力向上のみならず、無人島でのサバイバルキャンプや備前焼つくりなど、生きる力を育むための素晴らしい体験学習に取り組んでいる学校がある」。求道者たちvol.10でご紹介している備前焼作家の大石橋さんからそううかがい向かったのは、同氏が陶芸講師を務める神戸市須磨区の学校法人 啓明学院。
須磨離宮公園の正門に続く離宮道の厳かな松並木や、広い空と須磨の海、さらには緑ゆたかな横尾山。そんな美しい景色が広がる環境に位置する同学院が生徒に得て欲しいと願うのは、3つ。1つ目は、「誰に言われるのではなく、自発的にテーマを見つけ、自発的に勉強するという自学自習の習慣」。2つ目は、「生涯を通じて、自分で自分を育てる姿勢」。3つ目は、「神様に愛され、友情に包まれた者として、光の子、啓明の子として何事も自己責任を負う誇り高き精神」です。これらを定め、同学院の改革を2002年から推進させたのが、啓明学院中学校・高等学校 理事長・院長 尾崎八郎氏。同氏に同学院の実践する教育をうかがうことにしました。

発声の練習をする生徒や、ダンスの練習をする生徒がおり、とても活気に満ちていた、啓明学院の校内。

啓明学院中学校・高等学校 理事長・院長 尾崎八郎氏。

「当学院は中・高、さらには大学・大学院までの一貫教育を採用しており、学術、そして人格の両面において大学生活を想定した準備を積極的に行っています。つまり、子どもたちを丸ごと育てるのです。その一つが読書であり、さまざまな体験を通した学習にあります。読書では、高校2年生までに読書技術や図書館の資料検索法をマスターし、学科の枠を超えるスタディ・スキルを身につけます。さらに、3年生では、生徒一人ひとりが自ら興味のある文献を選び出し、研究のテーマを見つけ、『学習レポート』を作成。それらをまとめてプレゼンテーションを実施します。これは、学びの集大成でもあります。一方、体験学習では、普段の授業ではできないような書道や華道などの日本を代表する文化のほか、セーリングやダンスなどのアクティブな講座を展開する土曜選択学習を柱としています。講座では、中学生と高校生が共に学ぶことで、中学生は高校生の知識の深さや志の高さに学び、高校生は中学生のお手本となるべく努力するのです。ここに中・高一貫教育の素晴らしさがあると思います」。
中・高一貫教育を受けて来た生徒が同学院での生活をどのように感じているのかを、高校3年生となった西川さんに振り返っていただきました。
「中学の時から啓明ですので、高校も大学も受験勉強をせずに通えます。ですので、自由な時間が多い。友人とつきあう時間も長いので、お互いに深く踏み込んだ人間関係を築けました。それは、すごく良い経験だったと思います。人間関係は難しいですが、深くつき合えばつき合うほど、『こんな面もあるんや。』『こんな考え方もあるんや』という発見がありますね」。穏やかに話す西川さんの顔には、充実感にも似た表情が浮かんでしました。

啓明学院高等学校3年の西川さん。

貴重な体験を通して
生徒たちは大きく成長

 啓明学院では、中・高入学後の生徒を対象に、2泊3日のオリエンテーションキャンプを実施しているそう。まずは、キャンプでどのようなことをするのかを尾崎氏に聞きました。
「啓明学院前島キャンプでのオリエンテーションキャンプでは、田んぼで泥んこになりながら、一つのボールを追いかける『メチャビー(ラグビーのようなスポーツ)』などのプログラムを通して、生徒同士が支え合い、打ち解けます。男女関係なく、泥んこですから、あるがまま、素直になれるのだと思います。また、講師の大石橋先生の協力のもと、備前焼づくり体験も行います。備前焼は形を整える段階ではまだ『人為』が及びますが、窯に入れてしまえば、『天為』の領域となり、火や灰の力によって色んな変化が生まれます。何がきっかけとなり運命が変わるのかは人それぞれなのですが、備前焼づくりというのは、どこか人生にも似ていると思いますね」。

啓明学院前島キャンプの入り口。
美しい海を望む、野外礼拝堂。

キャンプ場内の登り窯。

啓明学院前島キャンプでのオリエンテーションキャンプに続き、中学2年生の夏休みには、前島の隣に位置する無人島・青島で5泊6日のサバイバルキャンプも実施されるといいます。実際に体験した生徒自身は、当時どのようなことを感じたのかを知りたくて、現在高校一年生の佐藤さんにうかがいました。
「無人島での生活は、毎日の水の使用量や、食材の量も決まっていましたので、普段いかに恵まれた環境にいたかを心身ともに感じました。また、2年生全員が参加する海での1km遠泳があるのですが、水泳が得意な方ではなかったので、泳ぎきれたときはとてもうれしかったですし、普段あまり褒めない先生に褒めてもらったときのことは今でも覚えています」。

啓明学院高等学校1年の佐藤さん。

すべての経験はいつか
活きるときがくる

 こうした得難い経験を経た生徒の親御さんから、うれしい報告もあると啓明学院校長 藤本義和氏は語ります。
「青島でのキャンプを終えると、『親孝行な息子になりました』『“いただきます”を言うようになりました』というようなことを親御さんからよく聞きますね。啓明での学校生活で経験したさまざまなことが今すぐじゃなくても、何年後かに気づくとき、そして活きるときがくると私は信じています」。

啓明学院校長 藤本義和氏。

今回の学校訪問でお話をうかがった院長や校長、そして生徒さんの言葉の端々から「経験が血となり、肉となり、生きる力となる」ということを改めて痛感させられました。貴重な体験を積み重ねた同学院の生徒たち。彼ら、彼女らが、今後大いなる活躍することを願い、同学院を後にしました。

「入学した時よりも良い学校にしたい」と話す、啓明学院高等学校3年の東さん(左)と、啓明学院高等学校1年の佐藤さん(右)。