ワザ紀行 vol.7
岡山県備前市伊部 2019/3/4

赤煉瓦の煙突が迎える、備前焼のふる里を歩く。

伊部駅から徒歩圏に、見所がぎっしり。

JR岡山駅から赤穂線・播州赤穂行の電車に揺られること約40分、長閑な佇まいの「伊部(いんべ)」駅へと到着します。駅舎を出ると、もう目の前には赤い煉瓦の煙突が見えてきます。ここは、瀬戸や常滑、丹波、越前、信楽と並ぶ六古窯の一つ備前焼のふる里。街のいたるところに備前焼で作られたレリーフやタイル、屋根瓦が見られ焼き物の街の風情を醸し出しています。伊部駅を起点に歩ける範囲に見所が凝縮されているので、ふらりと訪れても充実した時を過ごすことができそうです。

伊部の駅前風景。正面に見える山は医王山。その奥に連なる熊山連峰から流出して堆積したものが、「ヒヨセ」という粘土層で備前焼の原土となる。「伊部」駅の南側、備前中学校付近から出るヒヨセが良質と言われている。

備前焼伝統産業会館で、多彩な魅力を知る。

まず訪れたのは、「伊部」駅の駅舎に直結する「備前焼伝統産業会館」。観光情報センターとお店が併設された1階から階段を上がって行くと、2階は岡山県備前焼陶友会会員の作品がずらりと並ぶショップになっています。作品を一つずつ見ていくと、備前焼が多彩な表情を持つ焼き物だということが分かります。展示は作家ごととなっていて、気鋭の若手から重鎮まで様々な作風を見て買い求めることができます。さらに3階へと階段をあがると、土ひねり体験ができるスペースがあります(土・日・祝日限定)。所要時間は1時間程度で、焼成したものを宅配してくれます。申込みは2階の事務所で受け付けているので、気軽に体験できます。

備前焼伝統産業会館/岡山県備前市伊部1657-7 TEL.0869-64-1001 [営業時間]9:30〜17:30[定休日]火曜日(祝日の場合はその翌日)、1・2階は12月29日~1月3日
【備前焼伝統産業会館・2階】岡山県備前焼陶友会・青年部のみなさんに、ご自分の作品を手にしていただいた。
【備前焼伝統産業会館・3階】土ひねり体験(土・日・祝日限定)は、1名につき土600グラムで、焼成が登り窯の場合3,780円(税込)、ヒダスキの場合3,240円(税込)。送料は別途となる。(2019年1月取材時)

備前焼ミュージアムで、人間国宝の作品に触れる。

備前焼伝統産業会館を出ると、すぐ右手に「備前市立備前焼ミュージアム」があります。ここは、備前焼の貴重な資料や作品が展示されています。備前焼は、金重陶陽、藤原啓、山本陶秀、藤原雄、伊勢﨑淳と5人も人間国宝を輩出しておりますが、備前焼ミュージアムでは人間国宝の作品も見ることができます。備前焼は古墳時代の須恵器の製法が次第に変化したものと言われていますが、展示には須恵器(奈良時代)や古備前なども含まれています。千年の歴史に思いを馳せながら、館内を巡ってはいかがでしょう。企画展も開催されていて、備前焼を中心とした陶芸鑑賞の一時を楽しむこともできます。

備前市立備前焼ミュージアム/岡山県備前市伊部1659-6 TEL.0869-64-1400 [開館時間]9:00〜17:00[入館料]一般500円、高校・大学生300円、中学生以下無料、65歳以上割引有(備前市・赤穂市、上郡町に住所を有する方は250円、上記以外の65歳以上400円)※その他20名以上の団体割引有。[休館日]月曜日(祝日・振替休日の場合はその翌日)、展示替時、12月29日~1月3日
金重陶陽《徳利(東海天)》1966年 備前市立備前焼ミュージアム(上田コレクション)
詳細および今後の展示情報はWEBをご覧ください。https://www.city.bizen.okayama.jp/soshiki/31/940.html

旧国道沿いには、窯元が軒を連ねる。

備前焼ミュージアムを出て、目の前の国道2号線を横切ると、煉瓦の煙突の立ち並ぶ街並みが迫り「備前焼のふる里」という案内看板が見えてきます。昔からの窯元が軒を連ねる旧国道沿いは趣があり、街並みを眺めて歩くだけでも楽しく時間が過ぎていきます。多くの窯元は道沿いに店舗を構え、店舗の後方に登り窯を構えています。店先のショーケースを覗きながら歩き、気に入った作品があれば店に入り買うこともできます。窯元の「一陽窯」で、店舗と登り窯を見せていただきました。

趣のある伊部の街並み。10月の第3日曜日と前日の土曜日には、毎年「備前焼まつり」が開催され多くの人で賑わう。

店舗の裏手は、備前焼が生まれる場所。

「一陽窯」の当代・木村宏造氏は窯主、作家でもあり、岡山県備前焼陶友会の現理事長の職にも就かれています。案内されて広い店舗を抜け、建物後方に行くと登り窯が現れます。登り窯の横には、近く予定している窯焚き用の「わりき」と呼ばれる赤松の薪が1200束ほど積み上げられています。また、備前焼の原土「ヒヨセ」も保管されています。うかがうと、四角い形のヒヨセは手掘りしたものだそう。今はユンボで掘り出すことが多く、手掘りは貴重だそうです。釉薬を使わない備前焼は土に神経を使うそうで、保管している土の性質も「この土は何処で取れたから、こういう性質」ということを大体把握しているのだそうです。

一陽窯の店舗。この後方に登り窯や作陶のための敷地が広がる。多くの窯元がこのような構造をとるため、街に煙突が立ち並ぶ独特な風景が出来上がる。

登り窯、燃料となる赤松、ヒヨセ。備前焼に欠かせない材料、道具を見せていただいた。

宮獅子をはじめ、備前焼あふれる天津神社。

一陽窯を後に、旧国道を東へ歩くと堂々とした備前焼の宮獅子が出迎える「天津神社」に行き当たります。参道の敷石、神門の屋根瓦、絵馬までが備前焼で作られているのに驚かされます。特に、風雨に洗われ深みを増した神門の屋根瓦は圧巻の美しさ。「備前焼七不思議金彩の瓦」の看板には、胡麻焼、緋襷焼、牡丹餅、青備前、桟切焼、金彩、銀彩の文字が見えます。備前焼は経年変化も使う楽しみの一つ。瓦が、そんな楽しみを教えてくれるようです。

宮獅子、参道、神門、至る所に備前焼が使われている。
風雨に洗われ変化した神門の瓦。

備前焼とともに、瀬戸内の幸を味わえる店。

伊部の街のお食事処では、備前焼を使ってお料理を供しているところもあります。そうしたお食事処を訪ねて、美味しいお料理とともに備前焼の経年変化、使いやすさを知るのも一つの方法。伊部の街巡りの最後に、若手作家の作品を多く揃える「心寿司」を訪ねました。
店に入るとカウンターの後ろの棚には、備前焼の器がぎっしりとしまわれています。大将の中村さんにお話しをうかがうと、目で見て楽しい、美しいだけでなく、使いやすい形や大きさなどちょっとした選ぶポイントがあるそう。例えば器の糸底の処理が滑らかなものを選ぶのは、テーブルを傷つけないからとか。また、器の表面に微細な凹凸がある備前焼はビールの泡がきめ細かく立つということで、実際に硝子のグラスと飲み比べをさせていただくことに。確かに違います。お店では焼酎サーバーも備前焼のものを使っていますが、味がまろやかになる効果もあるそうです。毎日備前焼を使うプロからこんな話しを聞きながら瀬戸内の幸をいただくのも、旅の締めくくりに相応しい時間。備前焼を知る旅のプランに、ぜひ加えてみてください。

心寿司/岡山県備前市伊部1506 TEL.0869-64-0288