求道者たち vol.34
宮古上布~前編 2018/10/3

トンボの羽のように透き通る、
美しく繊細、そして強い麻織物。

サンゴ礁に囲まれた
南の島で400年よりも前に誕生。

 羽田から直行便で約3時間。サンゴ礁に囲まれた美しい島「宮古島」は、沖縄本島の南西方向へ約300kmの位置にあります。年平均気温が摂氏23.3度、年平均湿度が79%の亜熱帯海洋性気候に属すこの島で、麻織物の最高品と称される宮古上布は作られています。400年の歴史を持つ宮古上布は、1975年に国の伝統的工芸品に、1978年には重要無形文化財に指定されます。最盛期の大正から昭和12年頃にかけては年間生産量が1万反を超えていましたが、平成14年(2002)には10反にまで生産量は激減。危機感を抱いた行政と織物組合は、後継者育成の見直しに取り組みます。その後、平成18年(2006)には微増ですが成果を見せ始めています。
 今回は、この宮古上布の後継者育成にも積極的に関わっている「工房 がじまる」の浦崎美由希さんを訪ね、お話しをうかがいました。宮古上布の制作工程は5工程ありますが、細かく分けると1工程の中にもいろいろな作業があります。今回は、その一部を前編と後編に分けてお伝えいたします。

手つかずの自然が残る宮古島には、美しい風景が広がる観光名所が多々ある。「東平安名崎(ひがしへんなざき)」は、宮古島最東端にある美しい岬。左手が東シナ海、右手が太平洋の雄大な景色は、日本都市公園百景にも選ばれている。

「工房 がじまる」で
その工程を見学する

 「工房 がじまる」は2006年に、浦崎美由希さんとお母さんの羽地直子さんが設立した工房です。工房には数台の高機(たかはた)、糸車などの道具が整然と並んでいます。宮古上布は大きく分けると5分業になっているそうですが、「工房 がじまる」では、そのうちの4分業まで行っているそうです。宮古上布の制作工程を、美由希さんにかいつまんで説明していただきました。
 「工程は大きく分けると『糸づくり』、『図案・絣括り』、『染め』、『織り』、『仕上げ』の5分業になっています。『工房 かじまる』では『糸づくり』、『図案・絣括り』、『染め』、『織り』の工程を行います。私は、『図案・絣括り』、『染め』、『織り』の3分野を母は『糸づくり』、『織り』を行っています。

工房 がじまる/沖縄県宮古島市下地字川満31-1 アクセス/宮古空港より車で約5分※工房見学ご希望の方は事前にご連絡ください
取材した日の工房の湿度は約70%で、織るには最高の環境。湿度が足りない場合は加湿器を点け、ビニールのカーテンで仕切って一定の湿度を保つ。
美由希さんが手がけた宮古上布。向こうの風景が透けて見えている。

1.苧麻から
糸をつくる

 まずは苧麻(ちょま)から糸を作る「糸づくり」です。苧麻はイラクサ科の多年草で、宮古島には数種類あると言われています。方言では苧麻をブーと言い、アカブー、アオブー等と呼ばれています。収穫は年に5〜6回できますが、春から初夏に収穫する「うりずん苧麻(ブー)」からとれる繊維が最も上質とされています。苧麻から繊維を取り出す作業は「苧麻剥ぎ(ブーハギ)」、「苧麻引き(ブービキ)」と呼びます。ブービキの作業ではアワビの貝殻「ミミガイ」を使って、繊維を取り出します。
 美由希さんが取り出して見せてくれた繊維を、一本いただいて千切ろうとしましたが、切れない。とても強い繊維です。日陰に干して乾燥させると、繊維は生成り色に変化します。
 次の「苧麻裂き(ブーサキ)」の工程では、生成り色の繊維を細く裂き、結び目をつくらずに撚りながら繋いでいきます。経糸(たていと)は2本の繊維を撚り合わせ、緯糸(よこいと)は1本の繊維を撚り繋いでいきます。苧麻から糸を績む「苧麻績み(ブーンミ)」は、宮古上布の製作工程の中でも特に時間と熟練を要す仕事だそうです。

ミミガイを使って、繊維を取り出す。取り出した繊維を日陰干しして乾燥させた後、「苧麻績み(ブーンミ)」の工程に移る。
撚り繋ぎの済んだ糸を「ンミュー」と呼ぶ。着物一反分に必要な糸の長さは約30km。熟練者でも一反分の糸を績むのに3年ほどかけて糸づくりをすることも。数名で一反分の糸づくりをすることもある。
ンミューを糸車(ヤマ)を使って「撚り掛け(ツンギ)」し、その後「経木掛け(カシカケ)」の工程で長さと本数を整える。こうして出来上がった苧麻糸を「カシ」と呼ぶ。写真は糸の太さが違うカシ。左端にあるのはラード。これは織る際に、糸切れ防止のために使う。

2.図案を作成し、
染めの下拵えをする

 宮古上布には数種類のタイプがあります。十字絣の宮古上布の特徴は、藍で染めた糸で描く緻密な絣模様。絣の図案は数百種類あると言われ、その多くは自然や生活の中から発想されたものだそうです。図案は絣図案集や古裂地を参考にしながら、またオーダー品の場合は注文主の希望を聞きながら方眼紙に描いていきます。図案を描いた方眼紙は、まさに設計図。この設計図をもとにして経糸、緯糸のそれぞれ、絣の入る位置を決め、染める前の下拵えをしていきます。
 糸は染料が染み込まないように、木綿糸で手括りしますがこれが気の遠くなるような作業。古くから宮古では手括りをしてきましたが、大正6年(1917)に奄美大島から「締機(しめはた)」が導入され、この作業のスピードを飛躍的に高めました。現在「締機」は宮古島に3台あり、「工房 がじまる」にあるのがその一つ。「締機」を使う技術を習得するための研修が織物組合にて行われており、美由希さんも研修に参加して4年目になるそうです。

(以下、後編に続く)

方眼紙に描かれた図案。唐草の模様が白く浮き出ている。白い部分は糸を染めない。右上の写真は木綿糸で手括りしたもの。写真左下は、括りの作業を飛躍的にスピードアップさせた「締機」。締機で締めたものを「絣筵(かすりむしろ)」(写真右下の左と右下)と呼ぶ。これを染色後にほどくと、絣糸(写真右下の右上)が得られる。