ワザ紀行 vol.4
石川県 2011/10/7

石川発:高度な金属加工のワザが、
日本の先進技術を支える。

世界のモノづくりを支える
日本の金属加工

 人間は進化してくる中で、様々な道具を作り、使いこなすことによって文明を発展させてきました。最初は石や動物の骨、木材などの植物。そして人間は銅や鉄などの金属と出会います。その加工法も様々なものが編み出されてきました。金属を熱して溶かし、型に流し込むなどして目的の形にする「鋳造」、たたくことで形を整え、強度も高めていく「鍛造」、そして削ることで精緻な形をつくる「切削」等々。そうした技術は「武器をつくる」ことに使われた事実もありますが、一方で人間の暮らしを便利で豊かなものにしてくれました。
日本では金属は弥生時代のころに、中国・朝鮮半島経由で伝えられたと言われています。以来、独自の技術も磨きつつ発展。奈良の大仏のような巨大な鋳造物も建造されました。切れ味鋭い日本刀は鍛造による金属加工の代表的なものと言えるかもしれません。その優れた技術は日本各地に残る「鋳物」や「打刃物」という伝統工芸という形でも、今に伝えられていますが、明治時代以降の工業化の中で、大いに発揮されることになったのはご存知の通り。自動車や飛行機、建設機械や生産機械、そしてパソコンや携帯電話の部品にいたるまで、日本の最先端の金属加工の技術が使われています。先の東日本大震災で、東北の各種部品工場が被害を受けてしまったことで、世界のものづくり産業に影響が出たことを見ても、その実力がわかるでしょう。

複雑な形状も高精度で行う金属加工の技術

今回はそうした日本の最先端の金属加工の中でも、旋盤加工やマシニング加工などを得意とする、株式会社ヨシダセイコーの代表取締役、佳山哲也(よしやま てつや)さんにお話を伺いました。同社は石川県で有数の金属加工会社で、とても幅広い分野の部品製造を手掛けています。

紡織機の部品製造から
多彩な機械加工の分野へ

 石川県河北郡津幡町。ここに株式会社ヨシダセイコーの津幡工場があります。佳山さんにお話をうかがったのは、この工場内。一帯は工業団地となっていますが、付近に本州で最も広い「石川県森林公園」があるなど、緑も豊かな地域です。

お話をうかがったヨシダセイコー代表の佳山哲也さん

「石川県はもともと繊維産業向けの紡織機の生産が盛んな地域でした。当社ももともと紡織機の部品がメイン。しかし、外国から安価な紡織機が輸入されるようになり、日本の機械は高級品、という位置づけになってしまいました。高級な機械は高級な織物用、ということで次第に需要が縮小。当社としても他の分野への進出を考えなくてはならなかったのです」と語る佳山さん。ヨシダセイコーは50年以上の歴史を持つ企業ですが、そうした状況から十数年前より事業領域を拡大。現在では建設機械、農業用機械、二輪車、油圧、空圧部品など、多彩な分野でその技術力を発揮しています。

製品を説明してくださる佳山さん。

「金属を切削する方法に旋盤加工やフライス加工といったものがあります。旋盤加工は削りたい素材を軸で固定し回転させ、それに刃をあてて削っていき、円柱形や円筒形のものをつくるもの。フライス加工は逆に刃の方が回転し、削っていくものです。旋盤加工の場合ですと、昔はろくろ旋盤と言って単純に回転するものに職人が刃の位置を調整しながら当てて削るものでしたが、30年ほど前にカム式自動旋盤が導入されました。これは機械によって素材や刃の位置を動かし目的の形に削っていきます。さらにこうした仕組みがコンピュータで数値制御されたNC旋盤へと発展。さらに複数の加工を工具の交換まで自動で行うことで可能にしたマシニング加工も進化し、これによってより高精度のものを大量につくることが可能になったのです」

ミクロンオーダーの複雑な形の製品も手がける

現在、ヨシダセイコーではそうした最先端の機器も含め、60台以上の多彩な工作機械がメインで稼働。さまざまなニーズに応えています。実は以前、特集記事で取り上げた、やはり石川県にある朝日電機製作所さんの作る九谷焼や山中漆器メモリの金型を作ったのがヨシダセイコー(その時の編集記事はこちら)。その技術力は高く評価されています。

ボール盤と呼ばれる、穴をあけるための工作機械

積み重ねられたワザをもとに
新しいことにチャレンジ

 石川県の金属加工の会社が時代の変化で厳しい状況に置かれる中、ヨシダセイコーは先端技術の導入や、新しい分野への果敢な挑戦などで、評価を高めてきました。その中で、職人(技術者)の仕事は変わってきた部分もあるそうです。
「昔の、まだまだ機械化されていなかった時代は、職人さんが道具を持って渡り歩いていたこともあるようですが、現在は実際に削り始めるまでの“段取り”が重要になってきます。依頼される仕事は、完成品の形状はもちろん、削る素材、求められる精度、数量、納期など条件はそれぞれ異なります。それらを鑑みて、いかに顧客が満足するものを効率的につくるか。いいものができてもコストがかかってしまってはいけませんし、納期が守れなかったら論外です。そうしたことをトータルに考えながら、機械の設定をしたり、手順を決めていくことが重要です。」

段取り中のマシン。まず、この段階が重要。仕上がりや効率を左右する

そう語る佳山さん。もちろん、“段取り”ができるようになるには経験が必要とのこと。機械を扱うといっても、他の伝統工芸の職人さんとこのあたりは同じで、機械はあくまで道具であり、これをどう使いこなしてモノをつくっていくかが大事なのです。実際、顧客の要望によっては機械に取り付ける刃が出来合いのものでは対応できず、実際に現場で刃をつくる場合もあるそうです。これも道具から自分でつくる伝統工芸の職人さんと同様。また、複雑な形のものは、どこを掴んで(固定して)機械に取り付けるかも難しい問題。いいモノを早く正確につくろうとするためには、そうしたことについて創意工夫が必要ですが、そこには熟練の技が要求されるのです。

削ったり穴をあけたりする切削工具。ちょうどいいものがない場合はオリジナルでつくることも

「たとえば野球のピッチャーでも、いきなりうまくなったり、150キロの球が投げられたりするわけではありません。最初はキャッチボールなど基礎からしっかりやって、初めて上達すると思うんです。金属加工の技術者も同じで、最初はきちっと機械に素材を取り付ける作業から始まって、製品の寸法測定や整理など基本的なことから始めなければなりません。その積み重ねで、効率の良い段取りや機械のプログラミングができるようになり、高度な要望にも応えられるようになると思います」

高速で複合した切削の工程をこなす立型マシニングセンタを操りながら、製品をつくっていく

佳山さん自身、1級機械加工技能士を取得していて(数値制御旋盤とマシニングセンタ)、現在も難しい加工の際は一緒に現場で考えるなど、技術者としても活躍されています。
「ヨシダセイコーの特徴は、新しいことに挑戦しようという気持ちがあることだと思います。素材もアルミ、鉄、ステンレス、銅合金、樹脂など様々な素材を扱う。少量から大量なものまで生産する、難易度の高い加工に取り組む。現在、私たちがつくるものは外からは見えない、陰で技術を支えるものがほとんどですが、『これは自分たちがつくったものだ』とわかるような製品を手掛けたり、ゆくゆくはオリジナル商品を開発し、製作することに今後も挑戦したいと思います」

切削する素材の特性を知ることも重要。知識だけではなく、経験もものを言う

世界に誇る日本の金属加工技術は、こうしたヨシダセイコーのような会社が中心となって支えていると言えるでしょう。ヨシダセイコーでは20代の方も多く働いています。是非、日本のモノづくりを支える技術者になってほしいと思います。

ヨシダセイコーでは若手技術者も活躍