笠間焼発祥の地の、新たな挑戦。
笠間焼発祥の地、久野陶園。
ベテランから若手まで、様々な作風を持つ陶芸家が集う笠間。伝統のみにとらわれず、新しい表現を積極的に取り入れながら、それぞれが自由に芸術性を高め競い合う環境は、ほかの産地にはあまり見られないもの。現在では、「百花繚乱(ひゃっかりょうらん)」とも形容される「笠間焼」ですが、その発祥は信楽の陶工、長右衛門(ちょうえもん)が、笠間箱田村の名主であった久野半右衛門(くのはんえもん)の屋敷に立ち寄った江戸時代中期の安永年間(1772~81年)に遡ります。発祥から250年余の歳月を経た今、笠間焼発祥の地である「久野陶園」を再訪しました。
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再生と存続を目指し挑んだ、クラウドファンディング。
「久野陶園」を取材するのは2回目。1回目の取材は2010年でしたので、14年ぶりとなります。今回の訪問は、久野陶園の再生と存続を目指して開始した、クラウドファンディングの協力返礼品の発送が一段落したタイミング。クラウドファンディングで集まった支援金は、老朽化した工場の修復や、ギャラリースペースの新設などに使われたとのことで、14年前に訪れた時の佇まいを引き継ぎながら、より人が集い、発信する場所へと生まれ変わったように見えます。久野陶園の十四代、伊藤慶子さんに案内していただきました。
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2020年の日本遺産登録が、一つの契機。
まず目に入ったのは、久野陶園の工場の前に立つ、新しいプレート。そこには、「日本遺産 久野陶園 笠間焼発祥に係わる登窯」の文字と「かさましこ〜兄弟産地が紡ぐ焼き物語〜」の文字が刻まれています。これは、2020年に笠間市と栃木県益子町が申請した「かさましこ」が日本遺産に認定された際に、久野陶園も構成文化財に登録され設置されたものだそうです。日本遺産へ登録されたことで、来園する人も少しずつ増えてきます。慶子さんは、来園者のためにまずは自費で化粧室を設置します。しかし、老朽化した工場の修復などにはなかなか手が回らない状態。そこで2020年末に「久野陶園をやっていく会」が結成され、クラウドファンディングを活用した、久野陶園の再生と存続への挑戦が始まったのです。クラウドファンディングは、2022年3月に目標金額を大きく上回って終了。700人余のたくさんの方からの、心強い支援を得たそうです。
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新たな発信の場、ギャラリースペース。
工場の2階の倉庫は、隠れ家のようなギャラリー空間へ生まれ変わりました。柔らかな光の入る空間に、この日展示されていたのは、慶子さんの作品、そして久野陶園が手がけてきた生活雑器を現代的に復刻した「久野陶園プロダクツ」などです。慶子さんの器を見ると、「あんな料理やこんな料理を盛ったら映りが良さそう」と次々と日常で使っているシーンが浮かんできます。あたたかい家、あたたかい暮らしに寄り添ってきたのが久野陶園の笠間焼。その意志を、自然に引き継いでこられたのではないかと感じます。ギャラリー空間の入り口には、クラウドファンディングを通して支援してくださった方の名前が、陶板にひとつ一つ慶子さんの手書きで記され、深い感謝の気持ちを伝えています。
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再生された地から、新たな笠間焼が生まれる。
作陶の場である工場も、屋根を張り替えるなどの修復が行われました。工場の中を覗くと、「ベルト式動力轆轤(ろくろ)」など、歴史的な価値を感じる設備もそのままで、14年前と変わらない、ゆったりとした時間が流れているように感じます。新設された展示スペースに、久野陶園・十三代、久野道也氏の作品が溶け込むように飾られています。笠間焼発祥の工房は、自ら生み出した数多の生活雑器で人々の暮らしを潤してきました。そして250年余の歳月を経て、笠間焼を愛する多くの支援者により今の笠間焼を発信する場として再生されました。発祥の地から新たな笠間焼が生まれていく、そんな予感がしました。
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笠間焼