求道者たち vol.45
江戸硝子×サンドブラスト 2024/5/20

空に虹を見つけた時のような気持ちになる、ガラス作品を創る。

江戸で花開いた硝子製造は、
やがて東京の地場産業へ

日本で硝子製造が始まったのは、弥生時代。その後、一時の中断を経て16世紀〜17世紀、中国やポルトガル、オランダから製法が伝わり硝子製造は復活。江戸においては18世紀の初め頃から鏡や眼鏡、かんざし、風鈴などの硝子製造が始まります。その後、様々なニーズに応えるなかで、江戸(東京)の硝子製造は、多様な硝子製品を生産する産業として発展。「江戸硝子」は2002年に東京都の、2014年には国の伝統工芸に指定されるまで成長していきます。今回、取材で訪れた工房は、この江戸硝子にサンドブラストで装飾を施した作品をはじめ、バーナーワークなどの技法を用いて様々な作品を生み出している「Nijiirosketch(ニジイロスケッチ)」。ガラス工芸作家の鳥海さんが、どのようにしてこのガラスの世界に入ってきたのか、埼玉郊外の工房で、お話を伺ってきました。

江戸硝子

江戸硝子
サンドブラスト技法で夕焼けの情景を表現した「ぐい呑み」をはじめ、タンブラー、かんざし、帯留、ブローチ、アロマネックレスなどの多彩な鳥海さんのガラス作品。
江戸硝子
Nijiirosketch ガラス工芸作家/鳥海 友理(とりうみ・ゆり)
サンドブラストで記念品やグラスの彫刻、吹きガラス、バーナーワーク、キルンワーク等色々なガラス工芸の技法で作品を制作。使っていて癒されたり、楽しくなるようなデザインの作品をテーマに小さなアトリエで日々作成する。
https://www.creema.jp/c/nijiirosketch

江戸硝子
吉祥柄である立涌文(たてわきもん)がデザインされたタンブラー。立涌文はサンドブラスト技法でガラス表面に刻んでいる。鳥海さんが手にしているのが型紙で、型紙からマスキングシートを作成。マスキングシートを貼ったグラスにサンドブラストガンで砂(研磨剤)を吹き付けて模様を刻む。

家族と訪れたリゾート地で
ガラス工芸に初めて触れる

鳥海さんがガラス工芸に初めて触れたのは、高校生の時に家族と訪れたリゾート地。そこでは、美術大学生が指導し、ガラスにペン状の道具を使って文字や図形を刻む「グラスリッツェン」の体験教室が開かれていたそうです。
「ガラスの美しさに触れるとともに、ものづくりの面白さを知り、私もこのお姉さんのように美大に進みたい、と思うようになりました」。その思いを胸に、鳥海さんは美大の建築科に進学。卒業後は家具工房に就職したそうです。「その家具工房では、女性は一人。親方は丁寧に教えてくださったのだけど、なかなかの重労働で大変でしたね」。自分の本当の居場所なのだろうか、という思いもあり、程なくして退社。その後、結婚を機に徳島県へ移り住むことになりますが、そこで鳥海さんはガラス工芸に再会します。「徳島で見つけたガラススタジオに、様々なガラス技法を学べるコースがあって、最初はとんぼ玉を作ってみたい、という気持ちだったのですが、他の技法も学び出して。最終的にはそこで様々な技法を習得しました」。そしてサンドブラストという、ガラスに砂を吹き付けて模様を刻む技法で、記念品を作る工房に就職。すでに、様々な技法を身につけている鳥海さんは、工房でも様々なことに挑戦したそうです。

江戸硝子
バーナーや電気炉を備えた制作の製作スペース。バーナーワークでは、バーナーでガラスを溶かしながらステンレス製の棹に巻き付け、息を吹き込みながら成形していく。

フェスのサポート体験で
ものづくりへの思いが再燃

7年くらいその工房に勤めて、一旦区切りをつけ、その後、地元のアートフェスの仕事をしたことがきっかけで「私は、やっぱりモノづくりがしたいんだ」ということに改めて気づき、独立しようと考えたそう。そして鳥海さんは、そのために貯めたお金で、サンドブラスト機を買ったり、いろいろな道具を買い揃えていきます。ところが、いよいよガラス工芸作家として独立、という時にご主人が東京に転勤することに。転勤した東京では文京区に住むことになるのですが、そこで『文京区伝統工芸会』との出会いがあり、工芸会に所属して各地で開かれるイベントに出店して製作したガラス作品を販売するという活動を開始、現在も続けています。

江戸硝子

江戸硝子
バーナーワークで生み出されたアロマネックレス。ハート型、雫型のガラスのペンダントヘッドには小さな穴が空いていて、付属のスポイドで好きなアロマを入れることができる。

使い勝手にもこだわった、
人気上昇中のアロマネックレス

鳥海さんの作品の中で、人気上昇中なのが、ガラスのペンダントヘッドにアロマオイルを入れられる「アロマネックレス」。
「コロナ禍でマスク生活を強いられていた頃、香りで少しでも豊かな気持ちになれるといいなと、最初は自分のために作りました。工夫した点は、アロマを入れる穴をできるだけ小さくし、穴から液が漏れてこないようにすること。試行錯誤を繰り返して、完成させたものです」。「アロマネックレス」は雫の形をしたもの、そしてハートの形をしたものがあり、アクセサリーとしても気分が上がりますが、好きな香りを入れれば、さらに気分が上がりそうです。プレゼントとして、いくつも買っていく人がいるほど、人気の高い作品です。

江戸硝子
膠(にかわ)を使ってガラス表面に模様を作り出した「結霜ガラス」。結霜ガラスを使ったLEDキャンドル専用のキャンドルホルダーに明かりを灯すと、懐かしく暖かな光の揺らぎが現れる。

昭和レトロな結霜ガラスを
試行錯誤しながら製品化

また鳥海さんは、いま絶えかけていくガラス技法に、再び光を当てる活動もしています。「ガラスの表面に霜のような模様がある結霜(けっそう)ガラスという、昭和20年代後半から40年代にかけて製造されていたガラスがあります。これはガラスの表面に塗った膠(にかわ)が乾く時にガラスの表面を剥がすことで模様ができるのですが、膠の配合や乾かし方など、実験のように試行錯誤を繰り返して、安定的に作れるようになりました」。この結霜ガラスを使って、LEDキャンドル専用のキャンドルホルダーとして製作したのが、「結霜ガラス キャンドルホルダー」。レトロな雰囲気の結霜ガラスを通して、揺れる光は穏やかで見る者をとても優しい気分にさせてくれます。「これからも、いろいろな技法に挑戦しながら新しい作品を作り続け、作品を通してガラスの魅力を伝えていきたい」と言う、鳥海さん。今後、鳥海さんの手からどんな作品が生み出されていくのか、とても楽しみです。

江戸硝子×サンドブラスト

江戸硝子×バーナーワーク