求道者たち vol.17
陶芸家 2013/5/1

ハッピーカラーの器の向こうに、
つながる仲間の笑顔が見える。

作風にあらわれる個性。
ハッピーな色彩の器たち

村上祐仁(むらかみ・ゆうじ)プロフィール/1985年福岡県直方市生まれ。高校卒業後「多治見市陶磁器意匠研究所」に入所し、2006年卒業。2009年まで青木良太氏の初代アシスタントを務める。

 目にした瞬間、思わず微笑んでしまうハッピーカラー。若き陶芸家、村上祐仁(むらかみ・ゆうじ)さんの器には、人を幸せにする力があります。ピンク、イエロー、グリーン、サックスブルー、オレンジ。夢の世界を色で表現すると、こんなパステルカラーで描けそう。しかし、意外にも着想は現実の中にあります。道端に咲く花の色、水たまりに映った空の色、見上げれば空に向かって枝を伸ばす樹々の葉の色。見過ごしてしまいがちな日常の風景の中にあるハッピーカラーを、村上さんの優しい眼差しが一つ一つ摘み取って、ブーケのように仕立ててくれているようです。そんな村上さんのパーソナリティが感じられる作風は、陶芸を学びはじめた頃はまったく違うものだったのだそうです。
岐阜県岐阜市の住居兼工房におじゃまして、これまでの軌跡とこれからへの想いをうかがってきました。

釉薬ではなく化粧土を使って表現した器には、いわゆる陶芸のイメージとは違い明るい透明感がある。どちらかと言えば、磁器のニュアンスに近いかもしれない。

福岡の高校卒業後、
多治見市の意匠研へ

 父親は会社員、母方の親族には祖父をはじめ華道家が多い。そんな家庭環境で育った村上さんは、中学生の頃からものづくりを仕事にしていきたいと考えます。「実家にいた頃は自分を抑えていたというか、同世代の人と話をしても価値観が違いすぎてあまり話さないし、主張もせずに周囲に合わせていました」。人と同じ事はしたくない、サラリーマンはできないだろうなと考えていた村上さん。陶芸家になるきっかけは、お父様がつくってくれました。「陶芸家は父が昔やりたかったこと。意匠研(多治見市陶磁器意匠研究所)も、父が提案してくれました」。
陶磁器生産が盛んな岐阜県多治見市にある「多治見市陶磁器意匠研究所」は、地元の陶磁器産業振興を目的に1959年に設立された多治見市立の試験研究機関。やきものを学ぶ学校としても知られており、研修過程には全国から多くの若者が集まってきます。この多治見市陶磁器意匠研究所(以下、意匠研)に、村上さんは高校卒業後入所します。当初は、現在のようなカラフルな作風ではなく、渋い色合いの作品が多かったとのこと。あるとき、年配の男性から「なぜ若いのに自分たちの感覚に合うものがつくれるの」と問われたことをきっかけに、村上さんは「若い時にしかつくれないものってなんだろう」「僕ってなんだろう」と考えたと言います。そして色化粧の作品が誕生します。

卒業制作の自由制作に取り組んでいる当時の村上さん。轆轤が楽しくて、轆轤でひいたものをどんどん積み上げていくことに熱中していたという。

何種類もの色化粧の粉が作業机に並ぶ。粉を井戸水で溶き土を混ぜて筆で塗って着色する。低温で発色するものを調合して1230度で焼成して仕上げる。

金子小兵製陶所で
青木良太氏と出会う

 意匠研時代にアルバイトしていた「金子小兵製陶所」で、村上さんは気鋭の若手陶芸家“青木良太”氏と出会います。金子小兵製陶所は、陶芸家になろうと頑張る若手を応援する気風のある会社で、多治見近郊で活躍している陶芸家の多くがここ出身。アルバイトで新人が入ると歴代のアルバイトOBに声がかかり、顔合わせのバーベキューパーティが開かれるのだそうです。「青木さんと会う前から作品は知っていて、どんな人なんだろうと思っていました。僕が意匠研に入った頃は青木さんはスイスにいたのですが、ある時意匠研にふらっと現れた。このひとが青木さんなんだと。そしたら金子小兵製陶所の先輩だということもわかって」と青木さんとの縁を語る村上さん。卒業後は初代アシスタントとして招かれて青木さんのもとへ通います。当時を振り返り、村上さんはこう語ります。「いやーほんとに勉強させてもらった。そこでの3年半があるから今の僕がある。作家として活動するにはどうしたらいいのかを背中で見せてくれました」。
村上さんがアシスタントを卒業する少し前から、イケヤン(陶芸業界を盛り上げることを目的に青木良太氏を中心に結成された若手陶芸家による組織)の活動が始まっており、青木さんと同年代の勢いのある若手陶芸家たちと交流できたのも財産になったそうです。
そして24歳で独立。現在27歳で工房を構えるに至った村上さんですが、早い展開は高い目的意識と、大切な仲間と出会う運を彼が持っているからかもしれません。

多治見の会社で制作している電気炉は新品で約90万円ほど。ここで買うと好きな色にカスタマイズしてくれる。窯の横からガスで炎も出せる。還元をかけたいときなどに使う。(司電気炉製作所 http://tsukasadenkiro.com/index.html)。

上から詰める方式。手前開きよりスペースを取らない。ドンブリが一度に50から60個焼ける。1300度まで上げられるが温度、時間はプログラムコンピューターで管理する。

憧れの展覧会へ出展。
次々と夢をカタチに

 昨年、村上さんは「ミノ・セラミックス・ナウ2012」への出展も果たしました。「ミノ・セラミックス・ナウ」は美濃エリアで活躍する次世代を担う若手陶芸家や陶磁器デザイナーを一同に集める陶芸展で、第一回目は2004年の開催。2004年当時は青木良太氏が年齢的には一番下くらいだったそうです。「いつか僕も出展したいと思っていたので、声をかけていただいた時には、嬉しかったですね」。村上さんが出店した作品は香炉。蓮の実を思わせる孔がたくさん空いたフォルムは、現代的な雰囲気を漂わせています。「このオープニングセレモニーの時に、とある先輩から『ようやく同じ土俵に立ったね』と言ってもらったのがすごく嬉しかったですね」。
次々と目標を達成している村上さん。次に見据えているのは、どんなことなのでしょうか。

「ミノ・セラミックス・ナウ2012」の図録。この図録を見て「展覧会をやらないか」と声がかかることも多いのだという。
村上さんの作品が紹介されている頁。村上さんが2番目に若かったそう。

現代的な雰囲気を持つ香炉。

不思議な縁がつながり、
日韓若手陶芸家との交流へ

 JR岐阜駅に隣接する「アクティブG」は、岐阜ならではのアートや食を体感できるお店が並ぶ複合商業施設。今年の2月、アクティブGにあるクラフトショップ「CHA・CHA」で第二回目の「日本と韓国のやきものウィ・ハ・ヨ!展」が開催されました。これは意匠研を卒業し美濃を中心に活動している9名の若手陶芸家と、韓国の檀国大学で陶芸を学びソウルを中心に活動している若手陶芸家11名による日韓合同展。村上さんも出展していますが、そもそもこの展覧会も村上さんと「CHA・CHA」オーナーの板倉氏との縁があり実現したものです。「たまたま意匠研の後輩の代役で個展を開催したのですが、その会場の前に板倉さんのお店がありました。その時はお店の増築をかけていたのですが、僕の作品を気に入ってくださり新装開店を機に置いてもらえることになりました」。「CHA・CHA」はもともとは木工作品とポチャギのお店。若手の陶芸作品を増やしていくには、村上さんのネットワークや陶芸への見識を貸してほしいとの要請があったそうです。またオーナーの奥様が韓国刺繍「ポチャギ」の先生であることもあり、「日本と韓国のやきものウィ・ハ・ヨ!展」の開催もすんなりと決まったのだそうです。

JR岐阜駅西に隣接する「アクティブG」3階に「CHA・CHA」はある。
オーナーの板倉さんと村上さん。仲の良い親子のよう。

「日本と韓国のやきものウィ・ハ・ヨ!展」で来日した韓国の檀国大学出身の皆さんと。

若手陶芸家との
連携を見据えて

 実は、村上さんが多治見から岐阜に居を移す際も、住居兼工房になる物件をオーナーの板倉さんが探してきてくれたそう。オーナーの自宅もすぐ近くというロケーションです。「CHA・CHA」2号店を名古屋の「星が丘テラス」に出す計画も進んでいます。「オーナーからも自分の店だと思ってやってくれ、と言われています。僕の工房の2階には泊まれるスペースもあるので、ここが東西の陶芸家の中継地点になるといいなと思っています」。
また、これからは他のジャンルの人達ともつながりを作っていかなくては、と語る村上さん。今は、これまでやきものに興味のなかった人たちが目を向け始めたところ。視野を広げることが大事で、狭い所でお客さんを取り合うのには限界があるとも。韓国の若手陶芸家との交流も、韓国の人たちと日本で、日本の仲間と韓国でという展開につながっていくことが陶芸界の活性につながると考えているのだそうです。一本筋が通っているけれども、時代の匂いや偶然の出会いを自然に受け止める柔らかさが備わっている。天性のキャラクターが、村上さんの進む道をハッピーカラーに染めている、そんな印象を受けた取材でした。

織田信長公ゆかりの岐阜城が遠くに見える、村上さんの住居兼工房。近くに「CHA・CHA」2号店もオープン予定。
2階にところ狭しと作品が。村上祐仁ワールド全開!!

金華山から岐阜市内を望む。長良川の近くに住居兼工房はある。

村上さんの器を
体験できる場所

 ニッポンのワザドットコムのイベント「職人という生き方展」を開催している「パークホテル東京」のラウンジにて、村上さんの器を体験することができます。パークホテル東京の気持ちのよい吹き抜け空間に身をおいた時「森の中で大きな樹の下にいるような気持ちになった」という村上さん。森の中で見つけた樹の花の色、雨上がりの空を映した水たまり、青々と茂る樹々の緑。そんなイマジネーションで、生まれたのが色とりどりの器です。ラウンジでお茶を注文すると村上さんの器で供されますので、ぜひお試しください。

轆轤に台を置いて轆轤を回転させながら着色する。

アーチスト・イン・レジデンスならぬアーチスト・イン・ホテルで生まれた器。パークホテル東京(http://www.parkhoteltokyo.com/)のArt Shop「掌tanagokoro」、ギャラリーニッポンのワザ(http://www.gallerynipponnowaza.com/)でもお取り扱いを予定。詳しくはWebを御覧ください。

■ 村上さんの作品を扱っている全国のSHOP
[常設]
IROUギャラリー(千葉県・http://irou.jp/g/)
CHA-CHA(岐阜県・http://chacha1007.blog.fc2.com/)
FIELD NOTE(奈良県・http://field-note.main.jp/)
うつわ屋(熊本県・http://www.utsuwaya.net/)
ギャラリーニッポンのワザ(http://www.gallerynipponnowaza.com/)

■ 村上さんの作品を使用している全国のお店
[器使用]
ファンボギ(岐阜県) 韓国焼き肉
だいこん(岐阜県) おでん屋
稀凡(大阪府) 牛料理
濱膳(福岡県) そば屋
幸福論(熊本県) 懐石・会席料理