八雲たつ神々のふるさと。
あまたの伝統工芸・伝統芸能が息づく島根県。
出雲大社、神在月。
神々との縁が深い県。
神無月(かんなづき)は、旧暦10月の別名。この神無月、全国八百万(やおろず)の神々は島根県の出雲に集まり、縁結びの会議を開くとされています。出雲より他の地では神が不在になることから神の無い月と書いて神無月と呼びますが、神々が集まる出雲の方では、旧暦10月を神の在る月と書いて、神在月(かみありづき)と呼ぶのだそうです。ことほどさように、島根県は神々と縁の深いところ。最近では“縁結びの旅”や“パワースポットめぐりの旅”などが、若い人たちの心を捉え注目を集めています。
冒頭の縁結びのために集まった神々は、出雲大社の本殿両脇にある東西の十九社(じゅうくしゃ)に宿泊し、稲佐の浜へ行く途中の上の宮で会議を行うのだそうです。大きく開けた空に雲が湧いては消えるさまを背景に、大鳥居、御本殿、大注連縄とスケールの大きな建造物がたち並ぶ境内には、確かに人智を越えた何者かの気配があるようです。
出雲・隠岐・石見。
それぞれに息づく伝統工芸。
神々のふるさととして、長い歴史をもつ島根県にはその豊かな自然と文化に育まれた多くの伝統工芸があります。焼き物、和紙、漆器、めのう細工、木工品、石灯籠、そろばん、染織品、打ち刃物、神楽面、人形玩具。中国山地を背に東西約200kmと長く日本海に面した県土は、風土記の時代から出雲・隠岐・石見の三つのエリアから成り立っています。そしてそれぞれの地域には、柳宋悦、河井寛次郎が見いだした出西窯、ユネスコ無形文化遺産に登録された石州半紙、そしてたたら製鉄による刃物など、全国に名の知られた工芸品が数多く存在しています。
ヤマタノオロチ伝説が、
神話の世界へ誘う奥出雲。
出雲市から山深く入る奥出雲は、神話ゆかりの地が点在する神話の舞台。高天原を追われた須佐之男命(すさのおのみこと)が降り立ったのも奥出雲で、ヤマタノオロチを退治する物語もここから始まります。オロチを退治した須佐之男命は妻となる稲田比売命(いなたひめのみこ)との新居となる宮殿を構え、「八雲(やくも)立つ 出雲(いずも)八重垣(やへがき) 妻籠(つまご)みに 八重垣作る この八重垣を」という日本初の和歌を詠みます。この歌の中の「出雲」という言葉が、島根県の東部を「出雲地方」と呼ぶ語源になったとも言われています。 “新居となる宮殿”と伝わる須我神社も奥出雲にあります。
また、733年(天平5年)に編纂された「出雲国風土記」に、この地域で生産される鉄の優秀さが記されているように、奥出雲はたたら製鉄の歴史でも知られています。製鉄の原料となる砂鉄は鉄穴(かんな)流しという丘陵尾根に水路を導き水流により比重選鉱するという技術により巧みに採取されてきました。現在の奥出雲の棚田の中には、鉄穴流し跡を拓いたものも多いそうです。たたら製鉄で盛んになった鍛冶が刃物の種類や精度を高め、木や竹を削り作る「雲州そろばん」の生産を後押ししていったそうです。
ダイナミックな動きで
人々を魅了する石見神楽。
島根県の伝統芸能の中でも、神楽は特に盛んに行われています。出雲神楽、石見神楽、隠岐神楽と舞い方や奏楽に違いがありますが、なかでも石見神楽は、速いテンポとダイナミックな動きが特徴的な神楽として親しまれています。神楽は一般的に祭事の時に奉納されるものですが、石見神楽は一年中、石見各地でいくつもの「社中」により上演されています。
花形演目は、須佐之男命のヤマタノオロチ退治が題材の「大蛇」。大蛇が火を噴き須佐之男命と対決するシーンは圧巻ですが、この大蛇は強靱さで知られる伝統工芸品「石州和紙」と竹で作られています。軽くて丈夫な作りだからこそ、大蛇は激しい動きをすることができます。石見神楽がダイナミックなエンターテインメント性を身につけて進化してきたのも、この「石州和紙」がふんだんに使えるからだと言われています。