道具考 vol.4
南部鉄器 2014/5/2

土、砂、漆、木、鉄。
南部鉄器を生み出す素材と道具。

5つの自然の恵みを使い
鉄の器を作り出していく。

 「砂鉄」「漆」「川砂」「炭」「粘土」。南部鉄器は、この5つの自然の恵みから作られます。自然物を使って人の手で生み出される鉄の器には、とてもロマンを感じます。他の伝統工芸品でも職人のほとんどが、ものづくりに必要な道具の多くを自分で作りますが、南部鉄器でもそれは同じようです。
南部鉄器の製造工程を追いながら、その道具についてご説明いたしましょう。

「くご刷毛」という道具を使って、鐵瓶に着色をしていく工程。「くご刷毛」は、水辺に生える草「くご」を使って手作りする。

木型を回転させて鋳型を作る。
平面の図案を立体化していく。

 どのようなデザインの鐵瓶を作るか。イメージを図案にした後に、木型をつくります。これを実型(さねがた)にはめて、木型を回転させながら鋳型を作っていきます。鋳型は溶かした熱い鉄を受け止める器ですが、土と粘土で出来ています。土と粘土を水で湿らせ、実型と木型の隙間に詰めていき、木型をくるくる回すことで、その隙間が一定に形作られ鋳型になっていきます。

「図案」 田山和康さんのデザイン画。雲形定規などは使わず、すべて手描き。そうすることで、線の柔らかさ、作り手の個性が表現できるという。
「木型」 図案を元に作った木型。木型は、昔は文字通り木製だったが、今は金属製(鉄板)。
「実型」1 下の黒い型が実型。上から水道管のように伸びた管に木型をとりつけて、木型を手で回転させる。

「実型」2 実型は、上半分の鋳型、下半分の鋳型を製作するために上下に分かれている。

鉄瓶の表面に模様を描く。
ふるいで砂をより分ける。

 鋳型をつくる工程を「型挽き」と言います。この時、粗い砂からはじめ、片栗粉のように細かな砂まで砂の粒子を替えて挽いていきます。この工程を「荒挽き」「中挽き」「仕上げ挽き」と呼びます。こうして出来上がった鋳型の表面に型をおしていくことで、鐵瓶の表面に模様が生まれます。霰押(あられおし)で押せば、凹んだところに鉄が入り、お馴染みの霰紋(あられもん)が、鐵瓶の表面に浮かび上がります。

「ふるい」 砂をより分けるふるいも、手作りする場合があるとのこと。ふるいは、方言で「ころし」と呼ぶそう。
霰紋の鐵瓶。
「炉」 出来上がった鋳型は、乾燥させたのち炉で焼成する。炉は工房によって形も様々。七輪で焼く工房もあるという。

鋳型にそのまま鉄を注ぐと、鉄が張り付いてしまう。そこで、油を燃やして煤をつけておく。油煙をかけることで、型から鉄が取り出しやすくなる。昔は松の油を燃していたが、今は廃油、灯油などを使っている。写真は、油煙をかける場所。

鋳型に中子を組み合わせる。
溶かした鉄をこの隙間に流し込む。

 鋳型には「中子(なかご)」という型を組み合わせます。中子があることで、鐵瓶の空洞が生まれます。この中子を鋳型に組み合わせ、溶かした鉄を注ぎ込みます。

「中子」1 鐵瓶の胴体の中子。
「中子」2 鐵瓶の注ぎ口の中子。
中子を入れた鋳型が、上下組み合わさった状態。上部の穴から、溶けた鉄を注ぐ。
「とりべ」 溶かした鉄を「とりべ」にとって、鋳型に流し込む。今回は「鋳込み」の工程は取材していないので、高橋さんに実演していただいたシーン。

こんな風に、鉄が冷えた後に鐵瓶を鋳型から取り出す。

仕上げの段階で漆が登場。
漆を塗る刷毛も手作りの道具。

 鐵瓶を取り出した後は、鋳込みの時にできたバリを取り、さび止めのために鐵瓶が真っ赤になるまで炭火で「釜焼き」をします。この段階では、鐵瓶の色はまだ鉄のそのままの色で白っぽく感じます。ここに着色をすることで、黒や茶色の鐵瓶に仕上がります。

蓋のバリは、ヤスリで研磨する。
漆とおはぐろ、茶汁を混ぜた液体で着色する。
「くご刷毛」 くごという草で作る「くご刷毛」。
熱した鐵瓶に、くご刷毛で着色していく。音を立てて漆が蒸発するなかでの、作業。

白っぽかった鐵瓶が、茶色に色づいた。