学校訪問 vol.1
吉備高原学園高等学校 2011/11/22

全寮制で自立心を育み、
専門コースで個性を引き出す

親元を離れ、寮生活で
深い人間関係を築く

 今回の学校訪問でうかがったのは「求道者たちvol.10」で紹介している大石橋さんの母校であり、現在同氏が非常勤講師を勤める吉備高原学園高等学校です。岡山県が学校の施設・設備を整備し、これを県・民間などで構成する学校法人が運営するという公私協力によって設立された学園。25ヘクタールにも及ぶ広大な敷地には、各種教室をはじめとし、寮や大食堂など、充実した生活・教育環境が整っています。 そんな同校の実践する教育を、校長の有吉一行氏はこのように話します。
「教育の原点である人間教育を目指して本校は開校しました。本校の特色は『全寮制による全人教育とコース制による個性尊重教育』。吉備高原の豊かな自然に恵まれたキャンパスで先生と生徒が共に生活し、教え合い、そして学び合い互いに成長していきます。また、仲間とのさまざまな学校行事や寮行事を通じて『つなぐ力』『挫けない心』を育てています」。

正門を抜けると見えてくる校舎。

寮と校舎を結ぶ、共用棟。

先生が舎監として密に宿泊することで、学習指導のほか学校生活の関する悩み相談ができる同校での寮生活。見学させていただいた男子寮の部屋は間仕切りのない6人部屋となっており、寮の中には半個室の学習室、テレビや新聞を見られるラウンジも。また、とても優しそうな管理員さんもおり、安心して生活できる環境にあると感じました。男子寮と女子寮の間に位置するのは、大食堂。ここでは、生徒も先生も同じメニューを食べるということで、実際にいただいたのですが、たいへん美味しく、育ち盛りの生徒たちが喜びそうな具沢山なメニューでした。

男子寮と女子寮の中間に位置する大食堂。

9つの専門コースで
「個性の開花」をサポート

 前期(4月〜9月)、後期(10月〜3月)の2学期制を採用する男女共学の同校は、1学年100名の少人数制を採用し、各種検定の取得にも取り組んでいます。特に、同校は普通科でありながら、「陶芸デザイン」「生活デザイン」「情報システム」「クラフトデザイン」「健康スポーツ」「福祉ボランティア」「緑化システム」「インターナショナル」「キャリアデザイン」の9つの専門コースがあるのが特色。1年生では、9つのコース中から前期2コース、後期2コースの計4コースを選び、2年生からは1コースに絞り、2年間充実した設備環境の中でより専門的に学びます。  その真意を同校教頭(総舎監長)陣内清春氏はこう話します。
「専門コースで生徒の個性を引き出し、伸ばす『個性の開花』を目指すなど、生徒自身が内に秘めた無限の可能性を信じられるようにサポートしています」。  9つあるコースの中から今回取材させていただいたは、大石橋さんが講師を勤める「陶芸コース」。同コースには、大石橋さんの指導のもと本格的な備前焼をつくる「陶芸実習」。そして、彫刻家としても活躍する片山さんが造形技術を教える「陶芸研究」という2つの学習内容があり、10月には校内の登り窯で「窯焚き実習」を行っているそう。

陶芸コースの教室に隣接する、登り窯。

陶芸コースの授業は、はじめはワイワイとした雰囲気のなか始まったのですが、生徒たちが出展する文化祭までの目標が黒板に記入され、大石橋さんの合図と共に生徒ひとり一人がろくろ作業に移ると、雰囲気は一変。教室は静まり、どの生徒も手先に全神経を注いでいるようでした。  「コースでは、目標を細かく設定します。生徒たちがその目標を達成し、成功体験を手にする。それが自信となり、不得意なことにも逃げずに取り組んでくれることを目指しています」と大石橋さん。

文化祭までの目標を生徒に伝える大石橋さん。

「今後は、技術はもちろんですが、モノづくりに挑む姿勢の大切さを指導しながら、作家の仕事を通した社会との関わり合いも教えていきたいですね」と片山さん。

この他にも対外活動として陶芸コースでは、岡山空港で「無料陶芸教室」を開講したほか、同校で近隣の小学生、幼稚園児やその保護者を招いた「親子陶芸教室」を開講。生徒が講師となることで、伝える事の難しさや大切さを得られる、貴重な機会となっているそうです。

「自分のつくった作品を親に喜んでもらえた」
「良い所も悪い所も指摘し合える人間関係が築けた」

 吉備高原学園での約3年間。その中で生徒は何を得たのか、さらには同校に進学した理由もあわせて陶芸コースの3年生の高木さんと波多野さんにうかがいました。  「親戚のお兄ちゃんが吉備高原学園に通っていて。どちからというと、暗い性格だったのですが、通ううちにすごく明るくなっていったんです。そんな姿を見て、吉備への進学を決めました。僕も入学前より、よく話すようになったし、言葉使いが優しくなったかなと思います。陶芸と出会ったのは、1年生の時。さまざまな専門コースを選んだのですが、その中の一つが陶芸コースだったんです。自分で作った茶碗や湯のみを実家に持ち帰ったらすごく喜んでくれて、うれしかった。また、教えてくれる先生方もよく面倒を見てくれたので、ついてきたいと思ったのも大きかったですね。今後は、倉敷芸術科学大学で4年間、さらに備前焼を学んでいきたいと思っています」と高木さん。

高校3年生の高木さん。

一方で波多野さんは3年間をこのように振り返ります。  「高校進学を考えるにあたり、手びねりで有田焼の茶碗や湯のみをつくった経験もあったので、寮生活ができ、陶芸を学べる学校に進学したいと考えていました。そんな中で、出会ったのが吉備高原学園でした。地元が福岡でしたので、岡山での生活に不安も多かったのですが、先生も友達もみんな優しくて吉備に来て良かったと感じています。友達と3年間一緒に生活してきて、1年生ではわからなかったそれぞれの良さが見えて来た。良い所をほめるだけではなく、悪い所を指摘できるくらい深い人間関係を築くことができましたし、将来にもつながる良い経験ができたと思います。卒業後は、京都造形大学で陶芸を学び、ジャンルにとらわれる事なく、自由な作品をつくる作陶家になりたいです」。

高校3年生の波多野さん。

また、前出の同校教頭(総舎監長)陣内清春氏は、多感な時期に親元を離れて暮らすことで生徒たちが成長を遂げると語ります。
「寮生活では今まで親にしてもらっていたことを自分でしなくてはならない。だから、自立する心も育まれますし、規則正しい生活習慣が身に付く。春、夏、冬休みなどに実家に一時帰宅した際に、その成長ぶりに驚く親御さんもいますよ。また、陶芸コースをはじめ、各専門コースで自らの個性に気づき、成功体験を手にし、大きく成長する生徒もいます」。

先輩と後輩の絆は卒業後も
母校愛のもと思いは受け継がれる

 大石橋さん同様、自らが得たような成功体験を後輩にも得て欲しいという願いのもと、母校の講師として帰ってくる卒業生もいるそうです。
「進学、または就職して母校に講師として帰ってくる卒業生もいます。たとえば、専門コースであれば『緑化システム』の先生や、普通科の先生であれば、国語や英語の先生も本校の卒業生です。卒業生が自らの経験を、後輩に伝えるというのは素晴らしいことだと思っています。また、そうした先生方は、『後輩を一人前になれるようしっかりと育てたい』『母校をより良くしたい』という意識がとても高いですね」と同校事務長の小田上氏は語ります。  先輩が教え、後輩がその教えに学ぶ。今回の学校訪問では、仲間との絆を深めて自立心を育む寮生活や生徒ひとり一人の個性を引き出す専門コース制はもちろん、母校愛にあふれた教育によって受け継がれる学びの精神や技術によって、同校の生徒が大きく成長していることを実感しました。

校内のロビーには、さまざまな分野で活躍する卒業生たちの作品が並べられていました。