江戸和竿の歴史
江戸の文化を背景に誕生
やがて美術工芸品に
異なる竹を継ぎ合わせて一本の釣竿にする継竿「江戸和竿」がつくられたのは、今から約210年前の江戸中期。紀州徳川家の松本東作(とうさく)によって、ハゼやキスといった江戸前の魚を釣るために誕生しました。当時は、近くの川や海でおかずを釣ってくるという習慣もあり、竿を含め釣り道具は人々にとって身近なものだったようです。そんな身近さから実用性も考慮され、三本継ぎ五本継ぎなどの持ち運びに便利な竿が生まれました。やがて、実用性とともに芸術性にも磨きがかかり、美術工芸品としての価値も上昇。旦那衆にくわえて、著名な歌舞伎役者や落語家にも重宝されたそうです。現代において、釣り人口は減少。江戸和竿の需要も右肩下がりではあるものの、和竿特有の釣り心地の虜になった粋な釣り人からは、今もなお根強い人気を得ています。
江戸和竿の魅力
竿先が横にブレず釣りやすい
漆によって生まれる光沢
魚を釣り上げる際に竿先が横にぶれず、魚に逃げられることが少ないのが魅力の一つです。これは、グラスファイバーやカーボンファイバーによって量産される竿と比べて、竹によってつくられる江戸和竿は縦の繊維が通っているためです。日本各地にある竿の産地と異なり、ハゼ竿、キス竿、タナゴ竿、アユ竿、フナ竿など、狙う魚によって専用の竿が多彩にあることも特色。これは江戸和竿が生まれた当時、江戸前の川と海がどれほど豊かだったのかということを示すものでもあります。また、漆を何度も丹念に塗り重ねることによって生まれる飴色をした光沢も大きな特長となっています。
江戸和竿ができるまで
職人の個性が表れる彩色
漆と油で美しさを演出
江戸和竿をつくる和竿師は、数千本の竹の中から形状が美しく弾力性に優れた竹を選定する工程をはじめとし、漆塗りまですべて一人で行います。その工程の中でも前述の漆による美しい光沢がどのようにして生まれるのかを簡単に紹介していきたいと思います。まずは、すげ口と呼ばれる継ぎ目などに漆をムラなく配り、彩色していきます。この工程によって職人の美的感覚などの個性が表れるため、職人にとっては腕の見せ所でもあります。つぎの「拭き漆」では、指に漆をつけて竿を回しながらまんべんなく塗り込み、布で拭き上げ、約1日乾燥。この工程を何度も繰り返します。刷毛(はけ)などの代わりに指で漆を塗るのは、他の産地には見られない江戸和竿独自の塗り方でもあります。仕上げとして、漆の美しさを引き立てるため、竿全体に椿油を拭いて完成です。
主な産地・拠点 | 埼玉県 東京都 |
このワザの職業 | 和竿師 |
ここでワザを発揮 | 釣竿 |
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