トンボの羽のように透き通る、
美しく繊細、そして強い麻織物。
3.琉球藍を建て、
絣糸を染めていく
糸の染め場は、屋外にあります。藍甕は温度を保つために地中に埋められているのをよく見ますが、気温の高い宮古島では埋めないそうです。琉球藍(泥藍)、木灰汁の上澄み液、泡盛、水を仕込み、発酵を促すための水飴、黒糖を加えて藍建てを行います。
充分に発酵した証である泡「藍華(あいばな)」が一面に広がれば、準備が整います。「藍はすぐには染まらないので、少しずつの糸を回数を分けて染めます。糸に撚りがかかっているので、揉み込むようにしながら、一日に一回ずつ染めるようにしています」と美由希さん。20回ほどで、黒に近い濃い藍色に染め上がります。
4.染めた糸を
高機にかけ織る
糸を績み、染める。ここまでの工程を見ても、宮古上布が大変に手間と時間を要す織物だということが分かります。また今回の取材では、高機に糸をセットする工程は割愛しましたが織物の工程を少しでもご存じの方なら、この工程も大変な作業量であることがお分かりでしょう。
実際に織り始めてからも、数センチほど織っては針先で一本一本糸をすくって「絣合わせ(ツフウ)」をし、またある程度織り進んだら糊つけをするという工程を繰り返し丁寧に織っていくので、一反を織り上げるのに早い人でも半年から一年かかるのだそうです。美由希さんは「機に座っている時間の方が短いんですよ」と、ちょっと織っては立ち上がり、経糸の毛羽を鋏(ハサミ)で丁寧にカットして、また座って織っていきます。
5.洗濯と砧打ちで
仕上げ加工する。
宮古では仕上げ加工のことを「洗濯・砧打ち」と呼ぶそうです。「洗濯・砧打ち」は、織りの最中に糸についた糊やラード、手垢等を取り除き、またしなやかで丈夫な布にするために行います。反物を煮込み、踏み洗いし、仮砧打ちをして検査をします。糸切れやズレ等を補修し、仕上げとして糊をつけ干し、最後に砧打ちをする。一反を仕上げるのに10時間以上かかることもあるそうです。大変な労力が要る砧打ちは、男性の仕事でしたが、この仕事に携わる職人もわずかとなっているそうです。
宮古島の自然からの
贈り物が宮古上布。
最後に美由希さんが、工房の周りを案内してくれました。宮古上布では琉球藍のほか、染料として自生の草木を使います。たとえば、シャリンバイや福木。染料として使う植物は、工房の庭や街路樹から採取してくるそうです。庭や街路樹の草木は南国の太陽を浴びて緑濃く、強い生命力を感じさせます。苧麻、染料になる草木。宮古上布は宮古島の豊かな自然から作られた、繊細だけれどもたくましい生命力に満ちた織物なのだな、と感じました。
しかし、手間がかかる織物であること、そして携わる人の高齢化などの問題から、過去には存続の危機もありました。今でも問題は解決したわけではありませんが、行政や組合による後継者育成事業の見直しなどを経て、少しずつ変化が現れています。職人研修の門戸は、宮古島に移住してくる人にも、開かれています。宮古上布づくりだけで生活するのは、なかなか厳しいようですが、それでも工程を愛情深く説明してくださった美由希さんの姿から、宮古上布づくりに携わる醍醐味は活き活きと伝わってきます。
簡単な道のりではないでしょうが、宮古上布を取り巻く環境は変わりつつあり、その技は継承されていっているように感じます。そして宮古上布の魅力が、もっと多くの人に伝わり、買いたい人が増え、そしてつくる人が増えるという好循環が生まれていって欲しい。大きく根を張り葉を広げる「がじまる」のようにたくましく、発展していって欲しいと強く感じた取材でした。
(参考図書 : 宮古上布保持団体 発行「宮古上布〜その手技〜[改訂版]」2014年1月22日 改訂版)