道具考 vol.2
輪島塗 2011/2/24

沈金、蒔絵、呂色仕上げ…
輪島塗の「加飾」を支える道具

自ら刃先を作り上げる
沈金師の「ノミ」

 道具考の第2回目は、輪島塗を取り上げます。中でも今回は沈金や蒔絵といった「加飾」部門で使われる道具。当「ニッポンのワザドットコム」の「輪島塗」のページや編集記事でも取り上げているのでご存じの方も多いと思いますが、輪島塗の特徴は、まずしっかりとした下塗りにあります。漆を塗っては乾かし、塗っては乾かしすることで、丈夫で厚みのある漆の層ができあがります。それを活かして独自に発展したのが「沈金」です。

 沈金の精緻な文様を描き出しているのは専用の「沈金ノミ」。片切りノミや平ノミ、丸ノミ、点彫用ノミなどの種類があり、描きたい線によって使い分けます。職人は自分の使う道具には、それぞれこだわりや工夫を持っているもの。沈金師も同じです。ノミは刀と同じように鋼でできていて、特注で作る場合もありますし、研ぐ際に、自分の使いやすいように、あるいは個性の出るように刃先を調整することもあります。ですから、砥石の質にもこだわりがあり、気に入った砥石を何年も使っている沈金師の方も多いようです。もうひとつ、沈金師の方の道具に「枕(まくら)」があります。いわゆる、そば殻などが詰まった枕で、沈金師それぞれが「マイ枕」を持っています。これを足の上に抱え込んで、腕を固定し、沈金の作業をします。最近は机の上で仕事をする場合も多いようですが、やはり使い慣れた枕の上が安定して良いとのことです。編集記事でご紹介した沈金師の山崎さんは、修行中、親方に「枕を持って出ていけ」と怒られたこともある、と笑って語ってくれました。

道具職人がこだわりの素材で
つくりあげる粉筒、そして蒔絵筆

 輪島塗の加飾といえば、「沈金」と並んで「蒔絵」が有名です。美しい漆の上を舞台に、様々な色彩や模様を描き出す蒔絵には、様々な道具や材料が使われています。

 まず、「蒔絵」の語源とも言える、金粉などを「蒔(ま)く」ための道具、粉筒。基本的には篠竹などの竹製ですが、粉の落ちる量を調整するため、様々な太さのものや、粉を蒔く面に各種の絹の布を貼ったものがあります。鶴の羽の軸を使った細い粉筒もあります。蒔絵の作業の順番としては、上記の「蒔く」前に、器に漆で絵柄を描く、という作業があります。その漆で描かれた絵の上に金粉などを蒔くことで、器に繊細な模様が定着、さらに透明な漆をかけて乾かし、磨いていくのが蒔絵です。

 絵を描く筆には、古くは猫や鼠などの様々な動物の毛が使用されてきました。特に細い精緻な線を引くには、漆をよく含み、かつ、なめらかに漆が流れ落ちるものがよいとされています。中でも琵琶湖の葦原に住む鼠の毛は、毛先の水毛が長く、最適だということで重用されてきましたが、今では国内で良質の毛を調達することは大変難しくなっているそうです。この蒔絵筆をつくるにも高い技術が必要で、つくることのできる職人も少なくなってしまっています。この他、蒔き付ける材料としては金粉や銀粉の他、青金粉などがあり、粉の形状によって丸粉、平目粉、梨地粉、平粉などがあります。このような金属粉を蒔きつける他には、夜光貝や白蝶貝、アワビ貝などの内側を切り取り、漆に貼り付ける「螺鈿(らでん)」という技法もあります。

鏡のような仕上げを実現する
「究極の道具」

 輪島塗における呂色師の仕事は、下塗り、中塗り、上塗りと幾重にも塗り重ねられてきた漆を、さらに鏡のように磨き上げ、仕上げていくもの。実は沈金や蒔絵などを施すためには、前段階としてこの呂色の作業が欠かせません。もちろん、蒔絵や沈金を施さない呂色による「艶仕上げ」も輪島塗の大きな魅力のひとつです。鏡の用に磨き上げるには、まず、良質な研炭(主に静岡産の駿河炭)が使われます。さらに仕上げには、より目の細かい「呂色炭」を使います。

 最終的には脂砥粉やコンパウンドを使い、自分自身の手で磨いて仕上げていきます。手の脂や指紋なども関係してくるのでしょうか、機械で磨くよりもさらに細かい、ミクロンの単位まで磨き上げているのが呂色師の「手」。職人の最高の道具は、自らの手であるかもしれません。しかし、文字通り自分自身の手を「究極の道具」として使っている職人、それが呂色師なのです。