ワザNOW vol.5
林業 2012/2/20

五感で自然と渡り合う林業の魅力

林材ライター・赤堀楠雄さんに
林業の「いま」を伝えて頂きました

 日本は世界的に見ても、非常に多様な自然に恵まれた国土を有しています。さまざまな伝統工芸品も、そうした自然の恵みを素材に道具に存分に活用し、そこに多彩な知恵や工夫を施して作られてきました。また、和食を彩る山海の食材や、日本酒や味噌、醤油などのもととなる水や発酵を促す菌なども、自然が育んだ私たちへの贈り物です。
 今回、「編集部注目の特集」では、そうした自然の恵みを扱うもうひとつの仕事、「林業」の現在について、林材ライターの赤堀楠雄さんにレポートして頂きました。赤堀さんは全国の森や林業地に赴き、現場の視点で森と木と人のつながりを伝える「森先案内人」として活躍されています。次ページから赤堀さんに、林業についての基本的な知識から、現状、そこで働く人の姿、これから目指す人に必要なことなど、わかりやすく伝えてもらっています。きっと今まで知らなかった林業の魅力も感じることができるでしょう。

■プロフィール
赤堀楠雄(あかほり・くすお)=林材ライター=

1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。1988年~1999年 林業・木材産業専門新聞社である林材新聞社勤務。1999年4月に同社を退社し、以後はフリー記者として森林、林業、木材産業、住宅産業などに関する取材・記事執筆に従事している。長野県上田市在住。
著書に「図解入門 よくわかる最新木材のきほんと用途」(秀和システム刊)、「変わる住宅建築と国産材流通」(全国林業改良普及協会刊)、「基礎から学ぶ森と人の暮らし」(農文協刊、共著)がある。

Webの記事掲載例は下記等。
■中日環境net「森のめぐみ、木の温もり」
http://eco.chunichi.co.jp/column/column02/
■私の森.jp「伝えたい、森のいま」
http://watashinomori.jp/interview/index.html
■職人がつくる木の家ネット「林材レポート」
http://kino-ie.net/category/akahori

 山間地で営まれる林業は、都市部に住む人にとってもっとも縁遠く感じる産業のひとつかもしれません。でも実は都会から山村に引っ越して林業に従事している人はたくさんいます。それも男性だけでなく、女性でもチェーンソーで木を伐り倒したり、トラックに木を積み込んだりする仕事をしている人もいます。メジャーな仕事だとは言えませんが、やってみたいという人は増えていますし、そういう人を受け入れる体制も整ってきています。もちろん、苦労はあります。収入も都会で働くのと同じように稼ぐというわけにはいかないかもしれません。でも林業に就いた人の多くは、自然を相手に仕事をし、山里で暮らす日々に喜びを見出して生き生きと過ごしています。林業に従事するというのがどういうことなのか、そのさわりをご紹介しましょう。

林業への関わり方は二種類がある

 木造の家や木製の家具、箸やまな板といった日用品、金槌の柄などの道具類――と、私たちの身の回りには木でできたものがたくさんあります。林業とはそれらの原料となる木を山で生産する産業です。
 林業を仕事にしている人には大きく分けて二種類の人たちがいます。ひとつは自ら森林を所有し、所有林の木を販売して生計を立てている人たち、もうひとつは所有者から植林や伐採といった作業を請け負ったり、森林の管理を委託されたりして、それらの業務の対価として収入を得ている人たちです。前者は林業経営者、後者は林業従事者と呼ばれます。中には、木を伐って運び出したりといった作業も自分でやっている所有者もいて、そういう人は「自伐林家」(じばつりんか)と呼ばれますが、多くは所有している人と作業する人は別になります。
 このあたりの事情は農業と林業では大きく異なり、農業の場合は基本的に土地を所有している人が生産者として自分の田んぼや畑で作業も行っているわけです。ですから、新たに農業に就業する人もまずは農地を購入したり、借りたりして生産場所を確保しなければなりません。
 一方、林業の場合も森林を購入して林業経営者や自伐林家になることができないわけではありませんが、もし林業だけで食べて行こうとするなら、最低でも数十haから100haくらいの森林を入手する必要があります(1haは約3,000坪。東京ドームの広さが約5,000坪)。これは林業の生産期間が非常に長いためで、畑作や稲作なら種まきから収穫までの期間が1年のうちに収まりますから同じ土地で毎年収益を上げることができますが、林業の場合は木を育てて収穫するまでに少なくとも40~50年はかかってしまうので、毎年安定して収益を上げるためにはどうしても広大な森林を確保しておく必要があるのです。しかし、それには購入費として何千万円(あるいは1億円以上!)もの資金を用意しなければなりませんから、個人が新たに林業に参入する手段としては現実的ではありません。

毎年3,000人が林業に新規参入

 そこで都会に住んでいる人が林業を仕事にする場合は、先に述べた後者の立場である林業従事者になるのが一般的です。具体的には、林業の現場作業を請負っている林業会社や森林組合に就職することになります。実はその道に関しては、最近10年ほどでかなり開けてきています。
 林業が営まれている山間地域は過疎化や高齢化が進み、若年労働者が慢性的に不足しています。そこで1990年代半ばから、各地の森林組合や林業会社の中には都会に住む若者をターゲットとした求人活動を繰り広げるところがいくつも出てきました。それには林業の現場で働く若手を確保するとともに、彼らにその土地に根付いてもらうことによって、地域社会を活性化させたいという願いも込められていました。
 都会の若者が林業に興味を持ってくれるかどうか、まったくの未知数ではありましたが、恐る恐る求人雑誌に募集広告を出してみたところ、多くのケースで応募者が殺到し、採用担当者を驚かせることになりました。ちょうどバブル経済がはじけて何年か経った頃のことで、見せかけの豊かさに飽き飽きしている若者が増えていたのかもしれません。自然志向の高まりということもあったでしょう。ともかく「林業をやりたい若者が増えている」という話題は林業界を駆け巡り、同様の求人活動に取り組むところがいくつも出てくるようになりました。

 同じ頃、国も林業の労働力を確保するための政策に力を入れるようになります。96年には「林業労働力の確保の促進に関する法律」が定められ、林業への求人情報を提供したり、説明会を開いたりする「林業労働力確保支援センター」が各都道府県に設置されました。さらに2003年度からは、林業に関する基本的な技術を習得できる研修が「緑の雇用」事業によって行われるようになり、09年度までの7年間に約1万人がこの事業を活用して新たに林業に就業しました。「緑の雇用」関係以外での就業者も含めると、毎年3,000人以上が林業への新規参入を果たしています。

マニュアルにとどまらない能力が必要

 林業従事者になるのに特別な資格は必要ありません。実際にはチェーンソーの取り扱いや大型機械の運転などに関してさまざまな資格がありますが、それらは就業してからでも取ることができます。それにそうした資格はあくまでも基本的なものであって、本当に必要な技術やノウハウは日々、現場で仕事をする中で身に付けていくしかありません。
 林業と聞けばおそらく誰もが思い浮かべるように、まず必要なのが木を伐る技術です。最近は大型の林業専門機械が普及してきていて、中には木の伐採までやってのける機械もありますが、そうした作業が行われている現場は限られていて、ほとんどの場合は人がチェーンソーを使って木を伐り倒しています。
 林業のさまざまな作業の中でも、この伐倒作業がもっとも危険であり、高度な技術を要します。大きくて重い木を思った方向に確実に倒すのはとても大変なことです。それでも重心の向きに合わせて伐ればよいのであればまだ楽ですが、重心の方向に他の木があったり、伐り倒した後に運び出しやすくするために重心と異なる向きに倒す必要があったりと、1本1本の木によって条件は異なります。もちろん、教科書的に定められた作業手順はあるわけですが、それを踏まえた上での応用力や判断力が欠かせません。
 このことは苗木の成長のじゃまになる草を刈る「下草刈り」や余計な枝を切り落とす「枝打ち」、木々の混み具合を調整するためにどの木を間伐するかを決める「選木」といった作業でも同様で、マニュアルだけにとらわれていたのでは林業の現場作業は務まりません。自然を相手にする林業では、まったく同じ手順で同じ作業を繰り返すということはありえず、それぞれの現場ごと、作業ごとに自らのセンサーをフルに働かせて状況を判断し、対処方法を決めなければなりません。つまり自然との関係性を瞬時に構築する能力が求められ、それこそが林業の魅力でもあるわけです。
 ただし、そうした能力は一朝一夕には身に付きませんから、現場で経験を積むことが不可欠です。もちろん、「緑の雇用」の研修などで基本は教えてもらえますし、就業後は先輩の指導を受けることにもなるわけですが、受身の姿勢でいるのではなく、自ら目を開き、耳を澄ませて熟練者の技を盗むくらいの心がけが必要です。

機械化で「3K」イメージを払拭

 ひところ林業は「3K」業種だということがよく言われました。「3K」とは「キツイ」、「汚い」、「危険」の頭文字を表わしたもので、これを改善しないと若者を呼び寄せることができないと、林業関係者は頭を悩ませたものでした。どうすればいいか。そのひとつの答が「機械化」で、大型の機械を導入すれば作業の効率性が高まりますし、重筋労働から解放され、安全性も飛躍的に向上します。機種によっては操作するコックピットに冷暖房装置が備わっているものもあり、そうなれば真夏や真冬でもある程度快適に作業することができます。
 現在、林業の作業のうち、伐倒した木を必要な長さの丸太に切りそろえる「玉切り」や丸太を運び出す「搬出」などについてはかなり機械化が進んでいて、手元のスイッチやレバーを操作することで作業をこなすことができるようになっています。機械を使う場合も作業ごとに状況を判断する能力が求められるのは同じですが、体力的な部分ではかなり軽減されることになります。
 最近は林業の現場にも若い女性がけっこう進出していて、男性と同じように伐倒作業をこなす人もいますが、機械を駆使した作業であれば、女性でもより参入しやすくなるでしょうし、幅広い人材を受け入れることが可能になります。実際、こうした機械を思い通りに操作して現場に従事している女性はたくさんいます。
 ただし、林業は基本的に山の中での作業になるので、急傾斜地を歩き回る体力は必要ですし、真夏や真冬の厳しい気候にも耐えなければなりません。多少の雨や雪では現場は休みにはなりませんから、雨具を着込んでずぶ濡れになりながら作業しなければならないこともあります。機械化で安全性が向上したとは言え、足元の不安定な傾斜地で大きくて重たい木を扱う現場の作業が危険と背中合わせであることは変わりません。今はかつてのような「3K」云々といった自ら卑下するような表現は使われなくなっていますが、軽い気持ちで務まる仕事ではないということは肝に銘じておく必要があります。
 こうした現場作業の実情については就業してからでなければわからない部分はありますが、最近は求人活動の一環として実際の作業を体験できる講座やイベントが開かれるようになっているので、林業に興味がある人は、まずそうした講座を受講してみることをお勧めします。また、間伐や枝打ち、下刈りといった森林整備作業を定期的に行っている森林ボランティア団体も全国に数多くあるので、そうした活動に参加してみるのも自らの適性を知る上で有効だと思います。

収入は日給や出来高、地域社会の付き合いも

 実際に林業に就業した際に収入がどうなるのか、あるいは山間地域社会での暮らしがどうなのか。現場の作業が簡単ではないことは想像できても、こうした暮らしに関わることはなかなかイメージしづらいのではないかと思います。結論から言えば、都会での仕事や暮らしと異なる部分は多々あります。
 収入については、都会にいたときにどんな仕事をしていたのかにもよりますが、過度な期待を抱くことはできません。給与形態も月給制の職場はわずかしかなく、多くは日給制か出来高制での待遇となります。
 日給制というのは文字通り1日いくらの世界で、毎月の出勤日数によって月収が決まってくるわけです。ただし、仕事が早く進んだ場合にはプラスアルファの賃金をカウントしてくれ、それを賞与にプラスするというように頑張った分の見返りもあります。一方、出来高制というのは現場ごとに作業料金が決められていて、早く終われば日給に換算した収入は多くなりますし、日数が余計にかかればその分、収入が減ることになります。つまり、個々の能力に左右されることになるわけで、高い能力を身に付けた熟練者なら、むしろ出来高制で仕事を請負う方が収入が多くなる場合もあります。
 こうした待遇になっているのは、基本的に外仕事である林業の場合、台風や大雨だと仕事ができませんし、地域社会の一員として冠婚葬祭等の付き合いのために仕事を休まざるを得ないこともあり、そうなると月によって出勤日数にバラツキが生じる可能性があって月給制をとりづらいという事情があるためです。また、もともと地元に住んでいる人の場合は農業と兼業で林業にも従事しているケースも多く、農繁期には林業の方はどうしても休みがちになってしまいます。そういった兼業の人にとっては、日給制や出来高制の方が自分の都合でフレキシブルに対応できるので仕事がしやすいわけです。
 ただ、都会から新たに参入してきた人は、いずれは田んぼや畑もやるかもしれないにしろ、当面は林業の収入一本で食べていかなければなりませんから、ある程度安定した収入がないとやっていけません。もともとの住人ではない人には、住まいをどうするかも大問題です。最近は都会からのIターン者が増えていることを受けて、待遇の改善が図られている職場も増えていますし、町や村が新規就業者向けの公営住宅を用意してくれたり、空き家を紹介してくれたりするケースもあります。そのあたりの事情は事前によく確かめておくことが必要です。
 もうひとつ、都会との大きな違いは地域社会での暮らしにあります。よく「人付き合いに疲れたから自然を相手にする仕事をしたい」ということを林業への就業を希望する動機として話す人がいるようですが、それはまったく見当違いだと言わなければなりません。
 都会の暮らしなら、マンションの隣りの部屋にどんな人が住んでいるかも知らずに生活することもできるでしょうが、農山村の地域社会ではそうはいきません。都会と違い、農山村には住民同士が力を合わせて暮らしを成り立たせる風習が色濃く残っています。そうした中で我関せずの態度を決め込むことなど通りようがなく、隣組や自治会の一員として必要な役割を担うことが当然求められますし、都会とは違った密接な人間関係の中に身を置くことになります。つまり、林業に就業するということは地域社会の一員としての責任を担うことにもなるわけです。

林業は成長産業、森づくりのやりがいも

 経済が高度に成長した1970年代以降、木材の輸入量が大幅に増加し、さらに円高が進行して輸入コストが低下したことが木材の輸入増に拍車をかけ、国内で生産される木材(国産材)は長期にわたって苦戦を強いられてきました。木材の自給率は一時は20%を割り込むほどに低下し、現在も20%台後半にとどまっています。
 このようにこれまでは低迷期にあった日本林業ですが、最近は情勢がかなり変化してきてました。かつての日本は世界有数の木材輸入国としてアメリカやカナダといった産地国の主要なターゲットであったわけですが、昨今は中国やインド、中東諸国といった新興経済発展国の成長が目覚ましく、それらの国が木材の輸入量を大幅に増やしているために国際的な木材貿易市場における日本の地位は大幅に低下しています。その一方で国内の森林を見ると、1960~70年代に全国で盛んに植えられたスギやヒノキ、カラマツといった人工林が成長して本格的な生産期を迎えつつあり、国産材を利用しようという機運が各方面で高まっています。
 一例を挙げると、以前は原料のほとんどを東南アジアやロシアからの輸入に頼っていた合板業界が、最近は急速に国産材へのシフトを進めています。国内で生産される合板の原料に占める国産材の割合は、10年ほど前には10%に満たない水準でしたが、現在は70%近くまで急上昇しています。住宅業界でも大手のハウスメーカーやツーバイフォーメーカーといったかつては国産材に見向きもしなかったところが、国産材の利用に積極的に取り組むようになっています。さらに今後、化石エネルギーに依存しない持続可能な経済社会をつくっていく上で、伐採しても跡地でまた木を育てることによって再生産が可能な木材に対する注目度が大きく増すことが予想されます。こうした観点からすれば、将来的に日本の林業は成長産業として期待できると思います。

 農山村での暮らしにしても、近所づきあいが密接だというのは考えようによってはこれほど安心なことはありません。何かあったときに隣り近所が頼りになるのは心強いものですし、子どもを外で遊ばせていても農作業で外に出ている人が見るとはなしに見てくれていたりというのもありがたいものです。
 収入面では都会で稼ぐようにはいかないにしろ、身体を使い、全身のセンサーをフル回転させて自然と渡り合う現場の仕事には、室内に閉じこもってパソコンと向き合う息苦しさとは無縁の壮快感があります。自ら植えた苗木や手入れをした木が成長する姿を見て味わえる達成感も格別でしょう。日没後は機械や道具の手入れや打ち合わせなどがあっても夜中まで仕事をすることなどまずありえませんから、家族と過ごす時間も増えます。
 実際の話として、都会からIターンで林業に就業した人のすべてが仕事を続けているわけではありません。イメージしていたこととのギャップに耐えられなかったり、期待通りの収入が得られなかったりして辞めていった人も少なからずいます。
 しかし、それでも林業にやりがいを感じ、腰に鉈を吊り、チェーンソーを携えて山に通う人はたくさんいます。これから林業への就業を検討している人には、職場や地域を慎重に選ぶことは欠かせないにしろ、前向きな姿勢で自分の将来を切り開いていってほしいと思います。

 最後に林業の求人情報や体験イベントの案内、ボランティア団体の情報などが得られるサイトを紹介しておきます。これら以外にもさまざまな情報がインターネットや書籍などで得られますので探してみてください。

■「緑の雇用」総合ウエブサイト:http://www.ringyou.net/
■森林の仕事ナビ:http://www.nw-mori.or.jp/index.shtml
■全国の森林づくりボランティア団体一覧:http://www.green.or.jp/volun/