ワザNOW vol.2
石川県_2 2010/10/13

「伝統工芸+IT」で、
地域に元気を与える取り組みに注目

茶道具のワザを活かした
「山中漆器メモリ」

株式会社朝日電機製作所技術本部長の砂崎友宏さん。「いしかわメモリ」の仕掛け人です。

 前回に続き、石川県で取り組まれている、伝統工芸を巡る新しい挑戦についてレポートします。今回は、同県の電子機器メーカー、株式会社朝日電機製作所を訪問。技術本部長の砂崎さんにお話をうかがいました。

 朝日電機製作所は、IT技術を手がける石川県でも注目の企業。そんな同社が石川県の伝統工芸とコラボレーションして、発表したのが「いしかわメモリ」です。ひとつは石川県の伝統工芸、山中漆器との融合で生まれた「山中漆器メモリ」。山中漆器は特にその木地づくりの精妙さにあります。とても細かい縞模様などを作り出す「加飾挽き」の技法は高い評価を得ています。また、蒔絵の部分が盛り上がっている「高蒔絵」も山中漆器の特徴。木製のボディから塗り、蒔絵まで、そうした職人のワザが施されています。「漆器部分を担当してもらったのは、茶道具で有名な道場漆器店さん。とても上質な仕上がりになっていて、茶道具の棗(なつめ/抹茶を入れる容器)のような風情も感じられます」と砂崎さんは語ります。ちなみにこの道場漆器店さん、『料理の鉄人』で有名な道場六三郎さんのご実家だそうです。

陶器ならではの質感が活きる
「九谷焼メモリ」

 「いしかわメモリ」のもうひとつの注目は、『電子陶箱』と名付けられた九谷焼によるUSBメモリです。前回の特集で九谷焼の土を生産される谷口製土さんをご紹介しましたが、白く美しい『花坂陶石』などを用いた磁器が九谷焼。その素地に、緑、黄、赤、紫、紺青の五彩で描かれる華やかな上絵付けに大きな特徴があります。

 もちろん、この『電子陶箱』も上絵付けが魅力。伝統的な画風を施した加飾は、陶器ならではの質感とあいまって、山中漆器メモリとともに、こちらも新しい伝統工芸品とも言えるものに仕上がっていました。「私たちはもともと電子機器メーカー。普段は0.1mm以下の世界で勝負していますが、陶器は焼成すれば縮むなど、寸法のコントロールには難しい面があります。この九谷焼メモリでも随分試行錯誤をしました。また、このメモリをデスクで使っていて、床に落としても割れない強度を確保するため、多少の厚みを持たせています」という砂崎さん。その厚みがより重厚感をもたらしているようです。

 このほか朝日電機製作所では、漆塗りのマウスや手鏡型のメモリ、蒔絵を施したカード型のメモリなど、伝統工芸とIT技術の多彩な融合を試みています。

生まれ育った地域に
貢献したいという強い想いのもと

 「私は生まれも育ちも、そして職場も石川県です。ですから、何とかその石川県に貢献できる事業をしたいと考えていました」と語る砂崎さん。ここまでご紹介した「いしかわメモリ」はそんな砂崎さんの想いが形になったものです。

 「石川は京都に次ぐ伝統工芸のメッカといってもいいでしょう。しかし、その産地は市場も縮小傾向で、あまり元気があるとも言えません。後継者も思うように育てられない状況です。そこで、まずは新しい市場を創造するために、伝統工芸に関わる人々がモノづくりだけでなく、マネージメントをする力を付けていかなければならないのでは、と考えました。それは伝統工芸のイノベーター(いわば革新的な事業を手がける存在)になるということでもあります。そこで、私は現在、北陸先端技術大学院大学野博士課程で学んでいるのですが、研究テーマにUSBメモリの筐体(きょうたい/電子部品を収める部分)を伝統工芸品で制作する、ということを選び、取り組みました」という砂崎さん。

 仕事と学業をうまく結びつけ、実際に九谷焼の職人さんと山中漆器の職人さんといった伝統工芸の枠を超えた交流を図ったり(同じ石川県ながら、今まで交流はほとんど無かったそうです)、前ページまでで紹介したような伝統工芸とITがコラボした新商品を開発したりと、既に幅広い分野で行動を起こしています。それは各方面からの評価も高く、たとえば『九谷焼メモリ』は、観光庁が主催する「ビジット・ジャパン・キャンペーン魅力ある日本のおみやげコンテスト2010」で銀賞を受賞。実際に、海外での販売を試みたところ、評判も上々だったそう。「海外では特に漆器の人気が高いですね。価格的には高級品と言えますが、高いものから売れていきました」とのことです。今後もますます新しいことに挑戦していきたいと語る砂崎さん。

 前回の特集で紹介した九谷焼と輪島塗をコラボレートさせた『Kyu-Wa』もそうですが、石川県では、こうした伝統工芸の厳しい現状の中、その新しい可能性を追求する動きが展開されています。それはきっと、他の地域でも同じことでしょう。全国各地の職人さんが持つ「ニッポンのワザ」における高い技術力を、どうしたらより広いフィールドで活かすことができるか。これからはそうしたテーマが、もっともっと重要になっていくでしょう。私たちも一緒になって考えていきたいと思います。